雪の鉄樹 (光文社文庫 と 22-2)

著者 :
  • 光文社 (2016年4月12日発売)
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主人公である庭師の雅雪は、ある事件の【償い】のために、両親のいない少年・遼平の面倒を見ている。【償い】の理由を知った遼平は雅雪を恨むようになり・・・

本屋さんでなんとなく表紙にひかれて手に取った一冊。初めての作家さん。とっても暗くて、読んでいるととっても気持ちが疲れる。

鍼灸師の原田も言っていたけれど、雅雪は何も悪くない。何も悪くないのに遼平のそばで償いを続けるから遼平も親が殺された事実を忘れられない。遼平の祖母からひどすぎる仕打ちを受けても、遼平から冷たい態度をとられても、遼平のそばで償い続ける。なんでかなあと思うけれど、雅雪の性格なのでしょう。

誰かと食事ができない雅雪が食器を灰皿代わりにしているのを最低だと指摘されるところ。誰にも教わらなかった雅雪からしたら、なぜそれが最低なのかがわからない。コーヒーの空缶を灰皿代わりにすることと、食後の皿を灰皿代わりにすることの違いがわからない。たしかに、それはとても寂しいことだなと思った。同時に、私も誰かから直接「食器を灰皿にすることは下品だ」と教わったわけではないけれど、それが良くないことだと知っているのはなんでなんだろうと思った。生活するなかで自然と、マナーとか思いやりとか、もっと言うと愛を感じ取っていたのかも。そういうのを感じ取れないまま、教わらないまま大人になってしまう子どももいるんだな、寂しいなと思った。

雅雪が燃やされるところはすごい。狂気を感じる文章でゾッとした。
「松葉が降ってくる。でも、やっぱり降るなら雪がいい。舞子は言ってくれた。蘇鉄みたいだ、雪をかぶった蘇鉄のようだ、と。俺は嬉しかった。俺の名前にも雪がある。俺を産んだ女が残した、たったひとつの名残だ」
雅雪の命名の秘密もつらい。自分の息子が祖父と母に関心を持ってもらえるように、と父親が祈りを込めて名前をつけた。でもそれは叶わなかった。
最後に少しだけ救いがあるものの、どこまでも切ないつらい話だった。


「祖父や父のように壊れたまま生きるのはいやだ。吸殻山盛りに疑問を持たないような、汚い生きかたはいやだ。俺は苔庭のように生きたい。濡れたように輝く、清潔な緑の苔だ。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月22日
読了日 : 2023年1月15日
本棚登録日 : 2023年1月9日

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