ベニスに死す (集英社文庫)

  • 集英社 (2011年8月19日発売)
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感想 : 22
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ヴィスコンティ監督の映画版が好きです。オープニングの夕暮れんなかに船が消えていく姿が印象的で、あの音楽と相まって、始まりにして「ああもう終わりなのかぁこの人ぉ」と予感させるんです。

御多分にもれずマーラー好きになったわけですが、原作のモデルはマーラーじゃないんですね! むしろトマス・マン自身の日記とすらいえるくらい私的なお話。しかもベニスに行くまでに3分の1ページも使っちゃってるし、どうにも小難しいお話ばっかりだし。

でも映画だけだと、同性愛だとか小児性愛を描いたお話かと思っちゃいますが、「美とはなんぞや?」を追求した芸術論だってことがわかりました、だって主人公の作家先生、ご自分の著作が教科書に載ったことである意味「到達」しちゃったわけですが、実はその裏には今でも背徳への憧れがあるんでしょ? ゆえに死出の旅にて美の化身であるタジオくん(表紙の彼ね)に出会えたと。

ダメかね? ダメだね。ぶっちゃけますが、これほとんど実話らしいじゃないですか。そうなってくると、マンさんはタジオくんに幼き日の自分を見たんじゃないですか? つまりは鏡に写った自分の美しさにうっとりしちゃったんでは? マンさんはナルキッソスだったということですよこれは。違うかなぁ。岩波版実吉訳も読んでみます!

《芸術は、たとえ外的生活が僧院的静寂のうちに送られたとしても、ながいあいだには、もっとも放埒な熱情と快楽に満ちた生活すら生み出しえないような、神経の我儘、過度の洗練、疲労、そして好奇心を生み出すのである》

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年6月3日
読了日 : 2020年6月3日
本棚登録日 : 2020年6月3日

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