優しい画家の父と、料理上手で愛らしい母の間で育った銀花は小学四年生。
しかし、母には盗癖があり、何度も万引を繰り返していた。
また、そんな母をただ「かわいそうだから」と受け入れる父は、画家として芽が出ずにいた。
ある日銀花は、父の実家に一家で引越すことになったと告げられる。
父の実家は、座敷童がいるという言い伝えもある百五十年続く醤油蔵を営む旧家だった。
夾竹桃に例えられる毒母の存在を筆頭に、次々に起こる悲劇や秘されてきた事実の悲惨さは、いつもながらの容赦のなさ。
けれど、だからこそ、苦しみながら前に進む銀花の、苦しい日々の中の幸せが、あまりにささやかでもろく、かけがえのないものとして刻みつけられる。
父の描いたスケッチ、剛の煙草の火、母の遺したノート…銀花の心が感じた美しさは、誰にも奪われることのない輝きで、銀花を支えてきたのだろう。
デビュー作からずっと読んできた遠田潤子さん、このところ悲惨なだけではなく、幸福や希望もより強く感じられるようになって、本作は直木賞候補に。
嬉しいような、ちょっとさびしいようなファン心理です。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
国内作家
- 感想投稿日 : 2020年11月2日
- 読了日 : 2020年11月1日
- 本棚登録日 : 2020年3月18日
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