ファンタジスタドール イヴ (ハヤカワ文庫 JA ノ 4-2)

著者 :
  • 早川書房 (2013年9月20日発売)
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本棚登録 : 480
感想 : 42
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「それは、乳房であった。」
幼い頃、初めて見たミロのヴィーナス像の乳房の美しさに打ちのめされた大兄太子。
彼が知ったのは、女性の体の形状、心とは何の関わりもない物体としての、どうしようもない魅力だった。

長じて学問にのめり込んでいった大兄は、彼と同等の天才を持つ青年・遠智と出会い、さらにただひたすらにサイエンスの極みへ、禁断の研究へと突き動かされていく…


『タイタン』が面白かったので、野崎まど作品を順に読み倒すべく、たまたま図書館ですぐそこにあった一冊から読んだ。
アニメは見ていないので、この世界がこの後どう展開してゆくのか全く知らず、ただSFとして読んで、面白かった。

架空の超物理理論の黎明期が、むしろレトロな雰囲気を持った日本?の《鳴和〜白飾》時代の出来事として語られるのが、不思議な感覚。

その研究の理論を担う大兄の幼年期から青年期までの懊悩。運命の友となった遠智との、それぞれに傷付き壊れた心が絡み合う友情、理想と絶望がぶつかり合う運命の実験の日。

大兄太子という人間の前半生、「イヴ」を生み出した人々の熱狂の物語の始まりとして、謎めいて妖しい魅力があった。
読み終えてみれば、ごく薄い、170ページ足らずの物語なのに。

その成果である人造女性「イヴ」と「ドール」の生成が成った後に、研究が凍結されたことが年表で示されて終わるところも、良かった。


この続きとなる物語はアニメやアプリ、ジュブナイルがあるようだけれど、解説を読む限り、どうも手ざわりがまったく違うようなので、触らない方がいいのかも…
軽い異世界物もファンタジーも大好きだけれど、こういうのも、完全にトリップ出来ていい。
次はどの作品を読もうか、楽しみ。

誰にでも大声でお勧めできる面白さではなさそうなので、評価の星は2つにしたけれど、面白さは限りなく3つ。満足。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2020年7月23日
読了日 : 2020年10月25日
本棚登録日 : 2020年7月12日

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