雨の中の涙のように

著者 :
  • 光文社 (2020年8月18日発売)
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本棚登録 : 473
感想 : 76
5

十代でアイドルデビューした後に俳優に転身し、圧倒的なスター性を持つ、堀尾葉介。完璧な容姿のみならず、どこまでも謙虚で周囲への心配りをし、演技にも真摯な努力を怠らない。
そんな彼のオーラにふれた人々はみな、少なからぬ衝撃を受け、人生に新しい光が射すような思いになるのだった。

幼い頃から壮年となるまでの堀尾葉介に、さまざまな形で出会った人々を描く短編が9章に、最終章として葉介自身の物語が置かれた連作短編集。


『銀花の蔵』では、個々の出来事は重く過酷でありながら、周囲の人々の優しさを見失わず「へらへら笑って」いた銀花の明るさが作品を照らしていた。
本作では、完全無欠なスターのオーラを持つ堀尾葉介という人物が、さらに圧倒的なパワーで強い光と闇を放つ。

別の作家の作品かと思うような明るい希望に満ちた短編。
けれどその明るさをもたらしてきた葉介…というか、彼のオーラで人生を照らされそれぞれに幸福な方へ歩む人々を、どこか醒めた目で見つめる葉介自身の闇が吐き出された終章に、のけぞる。
けれど、葉介自身が子供の命を救い、不自由な身体になってなお俳優として前に進むというラストに、また驚き。

これまでずっしりと重い長編ばかりだった遠田潤子さんとしては初めての連作短編集という形式であることも手伝って、初めて手に取った人にも十二分に面白く、映画好きな読者にはさらに楽しめると思う。

古くからのファンとしては、驚くほどの変化だけれど…
ぐいぐい読まされる力、心理描写の生々しさは変わらず、読書の楽しみが損なわれることは無かった。

この頃、容赦のない悲惨で過激な描写が、ときに過剰に感じる作品が多くなってきたような。
信じられないような現実の事件よりも、小説はさらに衝撃的であろうとするのかもしれないが。

デビュー作から、悲惨な世界をディープに描いてきた遠田作品が、ここにきてふいに明るい方向へ向いたような…
以前は、真っ暗だった世界に一条の光…だったのが、全体の明度が上がった世界で、ごくごく限られた暗いスポットの輪郭が際立つようになった?
色合いは変わっても、コントラストのはっきりした印象的な作品なのに変わりはない。
これまでの作品も、この作品も、良かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内作家
感想投稿日 : 2020年11月5日
読了日 : 2020年12月9日
本棚登録日 : 2020年8月18日

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