紳士的で気品のある、ともすればとっつきにくい印象すらあるイギリスのイメージは、その国で食卓に並ぶ料理とは、およそ似つかわしくない。
はっきり言って、イギリスの料理は美味しくないし、端的に言えば、イギリスの料理はまずいのだ。
しかし、著者が問題にしているのは、料理が美味しいかどうかとか、料理がまずい理由とかではなくて、そうした料理に囲まれて暮らす人々は、どんな生活をしているのか、ということなのだ。
飾らない料理に囲まれた、パッとしない食卓には、暖かい燭台の光と、静かな木のテーブルの上で、ゆっくりと時間を過ごすことのできる空気がある。
彼ら彼女らが、料理の出来不出来に関わらない理由は、土地にあるのか歴史にあるのか、それらによって培われた人々の性質にあるのか、著者は答えを出していない。
しかし、日本に失われた食卓の風景を、日本で見られなくなった人々のコミュニケーションのあり方をこそ、明らかに憧憬しているのには違いない。
「男たちは、私に気づくと一様にオヤッという表情をし(多分日本人など、こんなところで見たことはないのであろう)、それから、ニコッと笑ってウインクを投げてよこしたりするのだった。けれども、もちろん私に話しかけるでもなく、自分たちだけかたまって、分かりにくい方言を大声ではなし、高らかな音をたててオナラなどをしつつ、傍若無人にラガーを飲んでいる。そういう様子はおなじ労働者階級とは言いながら、ロンドンの剣呑なコックニーパブとは違い、いっそ天気晴朗で気持ちが良いのだった。」(P.198)
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- 感想投稿日 : 2013年8月18日
- 読了日 : 2013年8月18日
- 本棚登録日 : 2013年8月18日
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