いまからもう二十年も前の話になるが、私が初めて買った養老先生の本がこれだった。以来、私は養老先生の魅力に虜になってしまうのである。
この本の何がすごいのか。「ヒトはなぜ解剖をするのか」を考えているところがすごい。著者は解剖学者である。軍人が、「オレはなぜ闘っているのか」と考えはじめたら、戦争には勝てない。ふつう、人間は前提を疑うことを嫌がるものなのである。
だから、養老先生の本や業績は、しばしば「解剖学ではない」と言われる。哲学だとか、脳の研究者だとか、とにかく解剖学者だと思われていない。でも、この本を読むと、言葉とは何かとか、心とは何かといった、一見哲学的にも見える問題が、目の前にある死体という歴然たる存在から発しているのだということがわかる。
上に述べた「前提を疑う」こともそうだが、養老先生を読んでいると、「そんな視点があったのか」「いったいどんなふうに世の中を見ているんだろう」といったことが気になってやめられない。あまりに面白いので、じつは人に薦めたくないくらいである。
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- 感想投稿日 : 2019年1月14日
- 読了日 : 2016年8月29日
- 本棚登録日 : 2016年8月29日
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