上野千鶴子の初めての著書という価値から岩波現代文庫に収められたのだろう。もともとはカッパブックスとして世に出たもの。広告類を中心に実例を挙げて社会の男の見せ方、女の見方を紹介し、多様性のないステレオタイプが蔓延していることを訴える。こういうのって、同性への視点と異性への視点とかあると思うけど、上野さんが書いていたように男は女を観賞物や性的対象としての目線で見るのに対して、女もまた女を見るときは男目線になっているというのはなるほど。もっといかがわしい広告とかも対象にしていれば、現代との違いが感じられたかもしれないけど、化粧品の広告とかメジャー雑誌の記事とかマスものではあまりそういう感じもしない。書中でもコピーがとんがってるわりにビジュアルが旧態依然というようなことが何度か出てくるけど、80年代初めも今もそのあたりはそんなに変わってない気がする。逆に言えば、そのくらい目で見ることのありようの大切さというか旧弊さというか、そういうものを感じる。
紹介されている広告や記事類が意外と今でも同じ文脈で読めてしまうのに対して、文調や書きぶりは隔世の感あり。軽~くナンチャッテ風に書くのは80年代の軽佻浮薄な社会のノリなんだろうし、短めの文章でつないでいくのはカッパブックスのスタイルなのかな。できるだけ軽くつくろうという感じがするんだけど、それだけにテーマのまじめさも伝わってくるような気がする。これって世の中全体の知性というか本を読む人率が高かったからじゃないだろうか。今の本のほうが大したもの感を出しながら内容は陳腐ってものが多い気がする。そんななかにあって光文社新書にわりと面白いテーマ、切り口のものが多いのもカッパブックスの頃からの伝統があるからなのかなと思ったりした。
- 感想投稿日 : 2017年9月18日
- 読了日 : 2017年9月16日
- 本棚登録日 : 2017年9月16日
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