勝ち続ける力 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2011年9月28日発売)
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感想 : 22
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翻訳家・柳瀬氏が聞き手となっての対談集。25歳以上の差があるのに、柳瀬氏と互角からむしろ上手くらいの調子で対話する羽生氏。将棋好きの柳瀬氏にとって羽生氏がヒーローだということもあるだろうが、羽生氏の落ち着いた思慮がこのような対談を成立させているのだろう。
将棋の話題なのでわからないところも多いのだが、それを社会に転じて語っているようなところでは、羽生氏の穏やかで確信に満ちた語りにうなずけるところが多々あり。「勝ち続ける力」というが本書からは、羽生氏にしろ他のプロ棋士にしろ、それほど勝つことを目指しているわけではない感じがした。勝敗よりも納得のいく終わり方をすることだ大事とでもいおうか。そして、それが「道」なのかもしれず、日本文化としての将棋なのかもしれない。というのは、チェスはスポーツと認識されているということや、国際化したがゆえの柔道の「道」的危うさが語られていたことから思ったもの。
自分の考えのなさ、浅薄さを思い知らされることが多いこの頃において、羽生さんのようなシャープなようでいて、人間らしさも感じられる考えが自ら生み出せたらと思った。その根底に、このような考えがあるからではないだろうか。
「他人がどんなことをして毎日暮らしているか、これは絶対に分からないことじゃないですか。ところが、記憶はどんなに悪くとも、自分自身が過ごしてきた生活ややってきた蓄積は、一番よく知っているものでしょう。自分がどれだけ怠けてきたか、どれだけ努力してきたか、どういう生活を過ごしてきたか。これは誰でも分かります。だから、最後に何かを決めるという段階に入ったら、自分自身を信じ切ることができるかどうかに、ものすごく影響されますね。
だから、考えている中身よりも、費やした時間や努力が、決断する時の安定剤になるというところがあるのかもしれません。もちろん、中身も大事なんですけど、これまで積み重ねてきたことを信じられるかどうかが、曇りなく決断したり、自信を持って次に進むということに、すごく関係しているのかな、という気がしています。」(p.80)
ところでヨコな話題だけど、能力の男女差が大きいとされている将棋について、羽生氏は男子と同じ条件で女子が修行すれば女子は男子に追いつくと話している。同じ条件が整わないのは、女子は夜遅くまで練習して夜道を一人で帰ったり、他の練習生たちと雑魚寝をさせるわけにいかないからだと。そんなことで女性の棋士が増えないのかって感じ。
それなら、同じような条件になるように整えればいいこと。女子にそこまでさせてはかわいそうというような曲がった論法のやさしさで、実はジェンダーだ。そこにかこつけて男子が既得権にしがみついているようなもの。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年9月30日
読了日 : 2017年9月29日
本棚登録日 : 2017年9月29日

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