ミッドナイト・バス

著者 :
  • 文藝春秋 (2014年1月24日発売)
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本棚登録 : 1003
感想 : 175
5

いい小説を読めたなあ。話を追っていくのが楽しみでいいペースで読めた。面白い本だと読み進めるが惜しくてチビチビ読んだあげく、読み疲れてグダグダで読了ということもままあるんだけど、この小説はそういうこともなく最後まで、どうなるんだろう、こうなればいいのになあ、と思いながら、「うん、まずまず」と読み終えた。
淡々と新潟に家があるアラフィフの高速路線バス運転手・利一さんの周囲の出来事が描かれる。淡々といっても、周囲には成人した息子と娘、学生自分にできちゃった結婚して離婚した元妻、最近いい仲になっている東京の女性といった人々がいて、けっこういろんなことが起きるんだけど、それらがいい意味で淡々と、長い人生のひとコマのように綴られる。この落ち着いた筆致が深夜便の高速バス(ミッドナイト・バス)や利一さんの人柄とあっているようで好感がもてる。挿話的に、バスの乗客の人生のひとコマも垣間見える。本筋と関係ないこの部分が意外といい効果を出している。
この小説は家族を描いているようでもあるが、あえてそうではないのだと解釈したい。血や紙でつながった「家族」というものでなく、合縁奇縁で出会った人々がつながったり離れたり、また結びつきを心の拠りどころにして生きていく物語。数十年ともに生きることも、同じバスに乗ってつかの間ふれ合うのも、ひとつの人どうしの出会いとしては等価値のように思える。だから、バスの乗客の挿話も読み捨てにできない気がするのだと思う。
終盤に向けて、登場人物たちは一歩いい方向へ踏み出していく感じがするんだけど、そのなかで利一さんだけがどうなのかなと思ってしまう。バス運転手として新潟と各地を行き来するかたわら、利一さんは子どもたちや元妻を包み込んで後押ししてあげている気がするんだよね。それでいながらいい仲だった女性とはぎくしゃくしたあげく、いったんはつき合いを断ってしまう。利一さんは人のために気働きして自分は一歩いい方向へ踏み出せていない気がする(最後の最後はそうでもないのだと思うけれど)。
利一さんがそうしてしまうのはなぜか。そこがかつての離婚や人づき合いの背景に影響していると思うんだけど、それって勝手な「男たるもの」意識なんじゃないかなとふと思う。利一さんがマッチョ思想なわけではないのだけど、世の男性が心ひそかに思ったり重荷にしている意識に利一さんも縛られているんだろうなあ。
こんなふうに思ったのは、元妻の父親が「男たるもの」的なことを利一さんに話すところがあったから。ちょっとステレオタイプな描きぶりで、この小説にそぐわない気もしたんだけど、女子ども以外として生きるのってつらくもあるだろうし、よかれと思っていることが、ほかの人を不幸にしていることもある。小説の定石として最後は示唆的に終わっているけど、その先の利一さんを知りたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年2月23日
読了日 : 2018年2月20日
本棚登録日 : 2018年2月20日

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