クラバート

  • 偕成社
3.97
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本棚登録 : 1846
感想 : 206
5

この書は一応児童書扱いであるのだが、どうしよう…
信じられないほど夢中になってしまった(汗)
今まで読んだ書の中で一気にベスト5内に躍り出てしまったではないか!
ブラックファンタジーとでも言うのか、不思議な世界とダークな世界が渦巻いており、無彩色な映像が続き、常にピーンとした緊張感がある
かなりの好みである(ぐふっ♪)
しかしホントに児童書かね?

小学校の教師から専属作家となったドイツ児童文化作家のプライスラーの作品

ドイツ伝説集の中にある、「ラウジッツ地方」の伝説(場所はドイツの東部からポーランドの西南端にかけての一帯であり、当時はドイツ領
ここはドイツ人(ゲルマン民族)の他に、ヴェント人(中スラブ系少数民族)がおり、そのヴェント人のクラバートについての伝説がおさめられていた)
こちらに感銘を受けた著者が11年もかけ練り上げた作品
年月の重みと丁寧な作品を思う存分に味わうことができる

注)多少のネタバレあり

クラバートは14歳
この気の毒な少年は両親がおらず、村から村へ渡り歩き、家のない浮浪生活をしていた

ある時から奇妙な夢の中で11羽のカラスに
「水車場に来い」
「親方の声にしたがえ」
と導かれるようになる

親方の弟子は11人と自分
水車場の見習いになる
過酷な製粉の仕事だったが
食事はたっぷりある、家もある、暖かく清潔な寝床…
そう彼にしてみればなんの不満もない夢のような場所なのだ
最初のクラバートこんな呑気な感じだ

過酷な労働と不思議な慣習
不可思議なことを誰もが口を閉ざし教えてくれない
「時が経てばわかる…」
職人頭のトンダがそう言う
そしてそのトンダがこっそり何度もクラバートを助けてくれる
親方や心ない同僚に見つからないように、そっと

週に一回、親方は魔法を教える
強制されない程度の教え方だが、クラバートは熱心に学ぶように…
魔法の術に通じれば他人を支配できる
いつしか頑張れば親方と同等の力をつけることができる…と考えるようになる

「なんでも魔法でできるのにどうしてまだ働く必要があるのだい?」
「そんな生活はすぐにうんざりしてしまう
人は働かなければけっきょくはだめになり、おそかれはやかれ破滅するほかないのさ」
そんな教訓も仲間から学ぶクラバート

ここでの1年は実は3年の経過を意味する不思議な異空間
外に出るには親方の許しがいる
暗く立ち込める死の影
水車場では毎年1人減り…そして1人増える
「水車場で死ぬものは、そんなやつはぜんぜんいたことがないように忘れられる
そうすることによってのみ残った他のものは生きていけるのだ」 
謎と秘密の多い親方
親方にはさらに親分(大親分)がいる…
理由はわからないものの、肌で感じ、何か「普通でないこと」を察するクラバート
ここに居ちゃいけないんだ
そうか親方と対峙しなくてはいけないのだ
自分を守るためならどんなことでもするおぞましさ、人の心を操るえげつなさ、そしてずる賢く容赦ないやり口…
こんなラスボスである親方にクラバートが本当に立ち向かえるのか…⁉︎

だがクラバートは徐々に成長し、頑張るのだ!
この成長ぶりは見ものである(児童書にややありがちな、わざとらしさや、みえみえさがないのでとても自然に描写される)
仲間とのやり取りもなかなかだ
裏切り者や嫌な奴とも不器用な奴とも、味方も敵も…
それなりに協力してやっていかなくてはならない
そして個性的な彼らもそれぞれ内に抱えるものや、複雑な思いがあるのだ(ユーロなんか大好きになった!)
(さまざまな教訓も散りばめられているのだが、このあたりも嫌味のない表現が多く、読んでいてニヤリとしてしまう)
訳の分からない状況でも与えられた環境でユーモアを忘れずに逞しく生きるクラバート
そして、いつしか自分もトンダにしてもらったことを、新参者の少年に…
そうトンダがいなくなっても彼はクラバートの心の中にいつも存在した

児童書だからって媚びてない!
恐ろしいことや残酷なことや悲しみも実に容赦ない
そのためこちらも身体を張って…いえ心を張って
体当たりで(心当たり?で)読んだ

わぁ、どうしよう止まらない!
あぁ、でも終わってほしくない
夢中になる手を止め、ちょっと我慢してみる
でも気になる……くぅ

この不思議な世界に浸っていたい
クラバートがどうなるのか
無事脱出し飛び立つことは可能なのか?
…と同時に、この歪んだ不思議な世界がなぜか気になって仕方がなかった
どんなカラクリでどんな掟があってどんな秘密が隠されているのか…
どうしてこれほど生死が身近なのか…
そしてこの圧倒的に抑圧された空間、環境でクラバーとが仲間がそして親方が何を考えどう行動していくのか…

いやぁ~ワクワクした
ブラックな感じも実に良い味を出している
そのブラックペッパー的なピリッと感とクラバートの成長と仲間たちの考えと行動力が深みある御出汁のようで絶妙なバランスをとっており、実に素晴らしいのである

久しぶりに何もかもが大満足の読書であった
こんな年になるまで本書に出会えなかったのは残念だが、逆に出会えたことは本当に感謝感謝である

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年8月31日
読了日 : 2021年8月31日
本棚登録日 : 2021年8月31日

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コメント 3件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/09/01

ハイジさん
「クラバート」を読んだ人は、最後の決断を誤らない筈、、、は言い過ぎ?

ハイジさんのコメント
2021/09/01

猫丸さん

クラバート好きに悪人はいない…
これも言い過ぎ⁉︎

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2021/09/01

ハイジさん
それは当たってるかも、、、

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