ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫)

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感想 : 203
4

「やさしいダンテ」に続いて阿刀田氏
そもそもはこちらをずっと読みたいと思っていたのであった
「やさしいダンテ」同様大変読みやすくお気に入り
冗長的で退屈な部分を一切省いた「おいしいところどり」してある

さて、「ギリシア神話を知っていますか?」…
なんとなく知っているものもあるし、あれ?これってギリシャ神話の話なんだというものも
映画になっていたり、無意識に我々の世界に存在しているような気がする
しかし腰を据えてきちんと知識を得たいと思っていたので、この本が丁度良い気がしたのだ
(実際初心者には最高に丁度良かった)

阿刀田氏の分類によると、ギリシア神話は、以下の5つの分類される。

1.オリンポスの神々の伝説
 (天地の生成から始まって神々誕生までの物語 またその神々のエピソード ゼウスの浮気っぷりにヘラのやきもちやきっぷり…みたいなやつです)
2.アルゴー丸遠征隊の伝説
 (イオルコスの王子イアソンが黒海の果てまで金の羊毛皮を探しに行く冒険譚 悲劇のヒロインメディアが登場)
3.英雄ヘラクレスの伝説
 (ゼウスの子であり、勇者であるヘラクレスの十二の冒険譚)
4.テーバイの伝説
 (オイディプス王の悲劇から娘のアンティゴネの物語ら辺 ドラマティックな要素が多い)
5.トロイア戦争の伝説
 (説明は不要ですね シュリーマンの大発見により新たな歴史が誕生した)

知識と小話
〇ギリシア神話とローマ神話とは、発生的にはまったく別個の神話であったが、ローマの文化はギリシア文化の多大な影響を受けて発展したため、
神話のほうも時代とともに混ざり合っていった ただし神々の名前にはギリシア名とローマ名が区別されている
ギリシア名→ローマ名の順で(ゼウス→ジュピター、ヘラ→ジュノウ、アフロディテ→ヴィーナス、エロス→キューピィドウ…など)
〇アフロディテ及びヴィーナスは「愛」の女神であるが、名前から派生した言葉はすべて肉体的な愛(?)に関係する
 アフロディジア→性的興奮、アフロディジアック→催淫剤、ヴィーナス病→性病…など
 ヨーロッパ文化で愛とは肉体的なものが先という考え方(我々の感覚とは異なりますな あ、人によるか)
〇ゼウスの破廉恥行為により、妻が不貞を働いた場合の夫
 相手がゼウスであればむしろ光栄に思うらしい 
 どうやら神の不貞は許されるべきものであり、その寵愛を受けることは名誉に値する(えええ 理屈はそうかもしれないけど…本心で納得できるか⁉)
〇「迷宮入り」の語源
クレタ島の怪物ミノタウロスが住む「迷宮」からきているか(クノッソス王宮)

それにしてもギリシア神話は面白い
日本の神話もなかなかであるがこちらの神様たちもひどい(笑)

日本の神話と似たやつをちょっと紹介

愛する妻エウリュディケが亡くなり、夫オルペウスが冥府へ赴き、再会の交渉をする
「けっして汝の妻の方へ振り返ってはいけない」という掟を破る…
日本の神話でもイザナギが黄泉の国で「見てはいけません」というイザナミの姿を見ちゃう
あれですな
他にも…
操の堅い人妻が敵方や不本意な殿方のところへ嫁に入る
意外とその運命を受け入れ、それなりに暮らせてしまうある意味たくましい女性たち(あるある)
自分の犯した罪が、めぐりに巡って最後は自分へ(光源氏がまさに)
女神のストライキで大凶作になる(天照大神が天岩戸へ隠れるシーンを彷彿させる)

しかしこれほど時代が違うのに似通うというのはなぜだろう
不思議である
人間の根本はやはり同じなのであろうか…
そんなわけで大変親しみやすい

ギリシア神話由来の言葉も改めてはたくさんことも再認識
(プロローグ、エピローグ、パンドラ、デモクラシー、オリンピック、マラソン、モルヒネ、ミルラ、スパルタ教育、サイレン、レズビアンなどなど)
知らず知らずのうちに我々は古代ギリシアとつながっている
神秘的だ

喜劇的なものから、救いのない悲劇、教訓めいたものから、輪廻転生、哲学がちりばめられていて興味深い
人間というのは善悪が混じって不安定でどうしようもない
いや、神様たちだって人間以上に人間くさい上、なかなかひどい(笑)
とこんな感じでギリシア神話の入門書としては最適ではなかろうか
1話ずつも短いうえ、阿刀田氏が親切丁寧に紐解いてくださる
そしてちょいちょい脱線するのもご愛嬌
阿刀田節をちょっと紹介
トロイヤ戦争で有名なオデュッセウス
彼の妻ペネロペイアは美しく、そして内向的才色兼備型の女性であった
オデュッセウスの帰還を20年も貞操を守り、待ち続ける
当然美しいペネロペイアの元へは、次々と若い貴族が入れ替わり立ち替わりやってきては求婚を迫る
うまく立ち振る舞いながらも女、子供だけで切り盛りするのも、そろそろ限界に近いある日、オデュッセウスが帰ってくる
しかしながらすでに自国にはオデュッセウスの地位さえも狙う者もおり、彼は乞食姿でこっそり帰還
それに気づいた身内が大喜びするものの、妻であるペネロペイアは夫婦しか知らない秘密を解き明かすまで夫と認めない…
どんな時も冷静沈着な賢い女性である
最後は無事夫との再会を果たし、歓喜の渦へと展開するのであるが…
そこで阿刀田氏のひとことが面白い
”しかし、こういう女は一緒に生活していると男は多いのほか疲れてしまうんですね… 
「あたしは、二十年も貞操を守ったのよ」と恩着せがましく言われたのではオデュッセウスはつらいでしょうなぁ…”
妙に納得がいく(笑)

というわけでギリシア神話が気になる!だけど、何から手を付けていいのかわからない…
なんとなくわかっているけどちっともつながらない…
という方々にはとてもおすすめである
但し、くれぐれもお子さんにはお見せしないことである(なんせ愛は肉体から…のため)

さてこちらを足掛かりにホメロスにいつか挑戦したいものだ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年6月25日
読了日 : 2021年6月25日
本棚登録日 : 2021年6月25日

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コメント 2件

メイさんのコメント
2021/06/26

はじめまして。こんにちは。
感想、拝読しました。そして中学時代を思い出しました。当時、ギリシャ神話が好きでこの本を読み、読書感想文を書きました。どういう内容かはあまり覚えてませんが、ハデスとその奥さんについて書いたような気がします。ただ、中学生の私にはまだ難しいかったですね。この本は。そう記憶してます。
ハイジさんの感想を読んで懐かしいと思いコメントをしてしまいました。
長くなり申し訳ございません。

ハイジさんのコメント
2021/06/26

メイさん
はじめまして
コメントありがとうございます(^ ^)

中学時代に読まれたのこと
素晴らしいですね!
羨ましいです
もっと早いうちにたくさん本に出会っていたら…と思いながら、時間の許す限り読書をするようになりましたので…

本書は面白いですね!
多くの方が手に取って欲しい内容ですね。

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