地下室の手記 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1970年1月1日発売)
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感想 : 335
4

読もう!と決心してから…腰を上げるまで時間がかかるのだドストエフスキーの作品は!
 
「地下室」と「ぼた雪にちなんで」の二部構成

※以下軽くネタバレ有ります


「地下室」は40歳の元役人がペテルブルグの片隅の住居・地下室になんと20年近く籠城しながら、社会に溶け込めない自分の不満(彼なりの思想だか哲学)が「俺は病んでいる……。」から始まり、延々60ページ近く言葉を変え変え独白するという内容
逆に言えばよくもまぁ同じことを手を変え言い続けられるものだ 60ページも!(まぁ20年と考えれば少ないくらいか(笑))
思想も理論もへったくれもない
ただただ自我剥き出しの醜悪な内容
他人を一切信じずに見下しているくせに、全て裏を返せば自分をわかってくれる人を心の奥底から求めている
ここを読むのはかなり大変だが、乗り越えた次の構からもうそれはそれは一気に面白いのである
そのための助走として頑張って読むのだ(笑)
(ここが面白くなったら本物のドストエフスキーファンと言えるのかなぁ…)


「ぼた雪にちなんで」
こちらは24歳の主人公に起きた出来事
大きく3つの内容に分かれている(と思う)

1つ目
「地下室」の独白された主人公の具体的な行動により、彼を読者がよりわかりやすく知る序章的内容
独りよがりの妄想決闘とでも言えようか…
ここはパロディ的に面白い(相手が全く気付かない決闘なんて!そして自分が勝ったのだ!と歓喜するのである)

2つ目
学生時代の同級生との出来事(ある人物の送別会)
みんなと仲良くやりたい本心があるのだが、もうそれはそれは真逆の態度で戦闘モード
皆に嫌われて、引っ込みがつかないとわかってもと言い訳を考えては「帰る」という選択肢を取らず居座り続ける
まるでスポイルされまくった駄々っ子のような最高の醜態をさらしまくるのである

3つ目
娼婦であるリーザとの出会い
ロマンチックな自分を演出しながら「君は間違っているんだ」と偉そうに正しい道を諭すようなことを言ってみせる
しかしながら再会した折に、うっかり自分の脆さをみせてしまい、ついついそんな自分をぶちまけはじめ、隠していたはずの内面をマグマが噴き出すかのごとく暴露してしまう
そして………



現代なら一体何という名の精神病であろうか…
妄想癖、誇張癖がひどく虚栄心が異常に高い
自分の殻に閉じこもって悪態をついて憂さ晴らしをしたかと思うと、自己嫌悪に陥らないための言い訳だらけのストーリーを組み立て自分を納得させる
人恋しいクセに異常なプライドと自分を守るために人を見下し陥れようと常に考えているのだが、所詮器が大したことは何もできない
たまに少し攻撃姿勢を見せるのだが、途端、亀が首を引っ込めるように言い訳して逃げる
まぁとにかく呆れること甚だしい
ここまで人の醜悪性や滑稽さをむき出しにした作品も珍しい気がする
しかもそれを全く負としてのオーラを出すことなく、悲劇のヒーローにも全くならず洗いざらいの醜態を読者にみせつける


もしかしたら、心に全くの闇のない澄んだ人にはさっぱり理解できない作品だのではないだろうか
最初あまりにもパロディじみた内容に笑ってしまったりしていたのだが…
主人公にまったく共感したくなんかないのに、まるで誰にも絶対に見られたくない自分の心を見透かされ、ズルズルと日の当たる公の場所に引きずり出される…そんな激しい心の痛みを覚え愕然とする
読むのにこんな意味で辛くなる作品があるのかと正直驚いた
人間の心の底とか魂とかではなく、なんというか「核」みたいなものにズドンとくる
ズドンときたら穴が開いてそこにすきま風が遠慮なく吹きつける
何が起きたのか…としばらく放心してしまう…

そんな何とも言えない衝撃作品だった
くる人にはくる(堪える)やばいヤツである
やっぱり凄いぞドストエフスキー
これは本当に読む価値がある
どこにも逃げ場がないほど、とことん自分と向き合える恐ろしい作品

ちなみに主人公の名前は「ネクラーソフ」
(日本人しか笑えないが…)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月6日
読了日 : 2020年1月6日
本棚登録日 : 2020年1月6日

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