打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫 よ 21-4)

著者 :
  • 文藝春秋 (2009年5月8日発売)
4.05
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本棚登録 : 2183
感想 : 136
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米原さんの書評エッセイ
こちらは、他のボリューム感のある頭を使う読書の息抜きに…と選別したのだが…
いつの間にかこの本がメインに進行していた
結局同時に読んでいた何冊かの本をぶっちぎりに抜き去りゴール!
まるで吸引力のような見えない力にすぅっと引き込まれ、そしてパワーにやられまくった
だからと言って読んで疲れるわけではないのがこれまた不思議

90%近くは未読の本の書評であるのに、すいすい面白く読める
読んだことのない本の書評を延々読めますか?普通…
圧巻の読書量と鋭い洞察力、変幻自在な表現力
確固たるご自身の考えや意見がズバババっと書いてある
まったくブレが感じられない
一方で繊細な優しさも感じられ感受性豊かで魅力的だ


いくつかをご紹介

■東海林さだお氏の「ダンゴの丸かじり」
ごくごく普通の日本の食生活を記載されている感じなのだが…
〜この丸かじりシリーズが楽しめるほど理解できて、ここで描写された食べ物が無性に食べたくなるような人
いてもたってもいられなくなるような人
そういう人は、私が勝手に太鼓判を押しましょう、立派な愛国者です〜

読んだことなくても…美味しそうで素朴な和食たち(丸かじりだから調理なんかされてないものもあるだろう)と想像できてしまう!
こんな本を海外生活の長い日本人に渡した米原さんはこっぴどく恨まれる(笑)

■「少年少女世界文学全集」他
「古事記」、「竹取物語」、「平家物語」、「今昔物語」、「源氏物語」、「南総里見八犬伝」などなどあらゆる日本の古典作品をお読みになっている
そんな日本人がいったい日本で何%いらっしゃるのだろう?
私は日本文学を専攻したので、それなりにかすめてはきたものの、完読できたものなんてあるだろうか…
通訳さんだから…というのもあると思うが日本をまた日本人のアイデンティティを大切にされているのも伝わりとても好感が持てる

■子供時代のソビエト学校での図書館の話し
返す時に司書が本の感想ではなく、内容を尋ねる
本を読んでいない人に理解できるように内容を客観的に手短に伝える訓練がされ、積極的攻撃的な読書になる

日本の学校もこんな司書さんが居ればなぁ
そうしたら日本人の子供たちはみんな図書館に行かなくなる⁉︎…(笑)

■スタンレー・コーレン氏「犬語の話し方」

犬が紛れもなく言語を持つ、と言うことを証明するために、専門家による実験や観察の成果を紹介するにとどまらず世界各地の文学作品の中に登場する犬の言語能力に関する記述を総動員し、進化論と動物学、言語学とコミニケーション論の最新の成果をふんだんに取り入れている
そもそも人間が音声言語を発達させることができたのは犬のおかげだ
と言う興味深い仮説
犬が人間の家畜となったのは、10万年前からと推測され、おかげで人間は嗅覚を犬に分担させることで、喉頭と声帯の形態的進化が促進され、複雑な音声を使い分けることができるようになったと言うのだ…

〜興味深い仮説ではないか!
たくさんの犬猫ちゃん達をお飼いになっていた米原さんならでは
こんな感じの犬猫たちの生物学的ないくつか面白いものも有る

他、アメリカのイラク攻撃や小泉内閣の郵政民営化(なかなかの批判ぶりであるが)
この辺りが旬の時代だ
もちろんロシアのネタも多く世界は広がる
あらゆるジャンルの本がある
社会派、歴史、文学、小説、エッセイ…
シリアスなものから、ユーモアたっぷりのものまで見事な乱読ぶりである
こんな本があるんだ!という驚きも…
(障害者の性についてや、イエスの弟、ブルマー←そうあの体育で女子がはかされた…について などなど)
幅広く、数珠つなぎで知識があふれる
自身の考えを、こちらにそそられる表現で伝えてくださり飽きさせない
読書意欲をそそられる本が結構あり、困ってしまった
(だって…)読みたい本が読書ペースにまったく追いつかない…(泣)

またこちらは、がん闘病記でもある
極めて冷静に綴っておられ、弱音を吐かれてもいないのだが、抑えられた感情が溢れてしまう部分が見え隠れし、なんとも胸が痛む
これほどのパワー溢れる文章からは想像つかないがこの人は今まさに身体を蝕まれているのだ…


圧倒的な文章に、ただただ「参りました!」
見事に「あっぱれ」な本!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月15日
読了日 : 2020年5月15日
本棚登録日 : 2020年5月15日

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