前半は中村文則らしくないどこにでもありそうな刑事小説だなと考えてしまう。
前半で挫折してしまいそうだったが、後半に入った瞬間、そう考えた自分を恥じたくなった。
怒涛の独白。
後半のその文章に引き込まれて、抜け出せなかった。
前半をかなりの時間をかけて読んでいたのに、後半はあっという間に読み終えた。びっくりした。
愛のない相手に抱かれることで自分へ罰を与えること
愛のない相手に抱かれることで他人へ仕返しをすること
仄暗いそれらの感情に中村文則はスポットをあて、
そして共に生きようと言う。
どうすればいいのだろう?といないとわかっている神に向かって天を仰いだ経験はだれしもあるだろう。
どうすればよかったのだろう?と、自分以外の世界のすべてを呪いたくなった時も誰にでもあるだろう。
後ろ暗い私たちはそれでも生きていかねばならぬ。
狂って、殺して、自殺して、、、、物語の登場人物のようになることは現実世界では難しい。
だから、どうしたって、時には物語よりもひどい局面に出会ったとしても、生きていかなければならない。
逆説的であるかもしれないが、それが生きるということだ。
生きるとは、なんとかして生きねばならぬということだ。
中村文則の物語が、きっと寄り添ってくれる。だからなんとかして生きていくことができる。
そう思う読者も多いのではないだろうか。
これはエンタメの刑事小説ではないのだ。ましてやサスペンスでもない。
人がどう生きるか、という、やはりこれは文学なのだと思う。
生きるのがどうしても辛くなったら、
あなたが消えた夜に何が起きるのか、周りの人はどう思い、どう生きていくのだろうか。
そういうことを考えてもいいのかもしれない。
- 感想投稿日 : 2023年5月6日
- 読了日 : 2023年5月6日
- 本棚登録日 : 2023年5月6日
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