『野火』は内容的にえぐいのかと警戒していたが(いや、えぐいんだけど)、思いのほか精神論に重点をおいていた印象だった。
視線を感じるというのは、やはりタブーに対する理性の働きや良心の呵責にも似た恥の概念なのか。善悪の判断と、生への執着――「考える」ことをやめたときに人間であることも終了してしまうのであれば、極限状態で自己を見つめ続けた主人公の精神は相当に強靭なものだが、しかし人食に向かった者、神を見出した者、どちらも己が心の解放を求めた結果の逃避と言えるかもしれない。「人肉を食わなかった」ことに、読み手でさえ「よかった」「それは正しい」と一言で片づけられない形になっている。
『ハムレット日記』は、『ハムレット』を読んだのがかなり前ということもあり、細かい差異に気づかないまま読了したが、面白さを再確認させてもらったので、また原典のほうに手をのばそう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
岩波文庫
- 感想投稿日 : 2014年1月29日
- 読了日 : 2014年1月29日
- 本棚登録日 : 2012年12月12日
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