越境者的ニッポン (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2009年3月19日発売)
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筆者は、国家や国民性というのはつくられたものであり、自然発生的なものではないと断ずる。そしてそれらを維持するための日本の仕組みに鋭く批判を加える。筆者自身の言葉で言うなら、「素朴な疑問を発する」のである。
ナショナリズム批判というと、「地球市民」という言葉などがあるように、純粋で穢れのない、実際には存在しない個人の姿を理想とするものも多く閉口しがちである。しかし筆者は、世界を旅し、その後も賭博で生計をたてている自身の経験に基づいて、人間の本質というのは国や国境に規定されるものではない、としているので、説得力がある。
残念なのは、筆者の考える「人間の本質」については、本書の中ではほとんど語られていない点である。勝手な想像になるが、それはきっと明るかったり暗かったり、真面目だったりずるかったりするが、自分のおかれた環境の中で精一杯生きている人のような気がする。
逆に現代日本に見られるような無気力で自分では何も考えられないような人々、それでいて全体主義の情報にすぐ反応する人々に、恐怖を覚えるのであろう。

以下、印象的な内容の抜粋;


【第1章 世界に1つの神の国?】
・西南戦争(1877)以降に日本国家ができたから日本人は立ち上げられた。(P26)
・不変で固有で永遠な倫理、文化、伝統、価値は無い(P29)
・国境によって切り取られる人間の価値観や性質は無い(P30)
・ナショナルアイデンティティはパスポートの違い(所属の違い)で、すべては個人に帰結する(P33)
・由らしむべし、知らしむべからず、が現在の政府の国民掌握手段(P36)
・「投影された他者」を創造・捏造することで「われわれ日本人」という集合主体を立ち上げる(P44)

【第2章 ろくでなしの教育論】
・放っておくと全体主義になる子供を強制し、多元主義にするのが教育。社会は異質なものの集合体なので、互いに認知し、共生すべき。(P60-61)
・希望が絶望に変わるのは、諦めた時(P70)
・人間は個人の思想信条に従って行動すべし、と教えるのが本来の学校(P72)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: コラムなど
感想投稿日 : 2012年4月10日
読了日 : 2012年4月9日
本棚登録日 : 2012年4月9日

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