広瀬正・小説全集・5 T型フォード殺人事件 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2008年11月20日発売)
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本棚登録 : 155
感想 : 19
4

半世紀前の殺人事件の真相が、今あきらかになる?!
過去と現在が混ざり合う、ミステリー小説。

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46年前のT型フォードが状態良好のまま、とある医師宅で保管されていた。

それを買い取った泉は、自宅でT型フォードの御披露目会を催す。
その会で、所有車だった医師の孫が話し出したのは、46年前に起こった殺人事件だった。

T型フォードの御披露目会はそうして、未だ真相不明の殺人事件について、考察する回へと変わっていくのだが…。

(T型フォード殺人事件)
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表題作の中編「T型フォード殺人事件」、短編「殺そうとした」、「立体交差」の3編を収録した1冊。
どの話も、昭和時代の映画を見ているような、セピア色の話でした。

「多分、こういうことだったの…かな??」という読後感だった既刊「ツィス」「エロス」「鏡の国のアリス」に比べ、「T型フォード殺人事件」は真相がはっきりしており、すっきりと読み終われる推理小説です。

また詳しくは書けないのですが、この小説の主人公、つまり語り手である“わたし”について、途中「アレ?!」と混乱する地点がきます。
「一体どういうこと…??」と、混乱して読み戻りましたが、すでに作者の術中にはまっていたことに気づき、「うわ~、やられたー!!!」となりました。

短編「殺そうとした」はタイトルが秀逸。
主人公たちはまさに「殺そうとした」状態だったのですが、まさかのドンデン返しに、これまた「えー…」と茫然となるお話です。

短編「立体交差」は、既刊「マイナス・ゼロ」をすこし思い出す、タイムマシンものなのですが、「マイナス・ゼロ」が過去に行く話に対してこちらは未来に行くお話です。
ただ、未来から戻ってきた主人公たちがとった行動の意味が最初わからず、ゆっくりその部分を読み直して「多分、こうなのかな…?」と、自信なさげな結末の意味予想をして読み終わりました。
そして巻末の石川喬司さんの解説を読んで、やっと自分の考えた予想に、自信がもてた感じです。

いくら未来を見てきたとしても、主人公が戻ってきたのはあくまでも「現在」です。
その地点から未来を見てみると、やっぱり未来は「まだ決まっていない」状態なのですから、主人公のとった行動の意図も、未来に続く道の1つとしてはアリだなと思った、「立体交差」の結末でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年8月23日
読了日 : 2020年8月20日
本棚登録日 : 2020年8月18日

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