登場人物ひとりひとりのもつ背景は結構深いものがあるのに、なぜかさらりとした軽さも持ちわせている、不思議な小説。
主人公は、大学時代とおなじアパートの1階に住むコンビニ店バイトの井川幹太、27歳。
大学卒業後、就職はしたものの、いろんなことがあってその会社を辞め、今の暮らしをしている。
おなじアパートに住んでいたかつての学友たちは、みなそれぞれの道を歩むために引っ越していった。
大家さんにはよくしてもらっているが、幹太は自分のアパートのどこにどんな人が住んでいるのかも、よくわかっていない。
しかしある出来事から幹太は、自分の部屋の上に住む住人と知り合うこととなりる…
主人公の幹太目線で話が進んでいくのだが、この幹太の語りというのがとても落ち着いていて淡々としている。
そのせいなのか、主人公以外の登場人物たちの背景にはちょっとヘビーなものもあるのに、物語全体がさらっと軽みをおびていて、読み切れてしまうのだ。
これは、幹太自身の気持ちは書かれていても、それに付随する感情表現が穏やかなせいかもしれない。
さまざまな人たちとの出会いから、幹太は自分の道を
自分の明確な意志で歩み始める。
恋愛要素もあるし、生死を感じる場面もあるし、家族や夫婦のことを考えさせる場面もある。
軽すぎるわけでもなく、浅すぎるわけでもなく、かといって深すぎたりも重すぎたりもしない。
とても不思議な読み心地なのだ。
帯には「(前略)胸熱くなる青春小説」の文字もみられたが、読んでみると「青春小説」というよりも、「井川幹太27歳現在の、人生小説」という印象を受けた。
幹太とおなじような世代で、とりあえず日々の暮らしはしているけれど、でもなにかもやもやしたおもいを抱えている方は、ひとつの生き方として幹太の人生を読んでみてもいいかもしれない。
- 感想投稿日 : 2022年9月5日
- 読了日 : 2022年8月27日
- 本棚登録日 : 2022年8月27日
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