人口減少社会の成長戦略 二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか? (文春文庫 い 17-14)

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  • 文藝春秋 (2007年8月3日発売)
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二宮金次郎の偉大さが今ようやく分かった。というか、今までにその実像をここまで分かりやすく示してくれた人はいなかった。 報徳教とか報徳思想というものの存在は知っていたが、どうにも雲をつかむような話でよく分かっていなかった。(何より、戦前・戦中の報徳教育のせいでイメージが悪かった) しかし、本書では金次郎の「財政再建の実践」を描くことで、非常に鮮明にその本質を浮かび上がらせている。 ・分度=プライマリーバランス ・五常講と冥加金の推譲=マイクロファイナンス、(金利の)再投資、非営利活動(利益の分配を目的としない) ・入り札=チームビルディング、モチベーションの維持 ・積小為大=複利効果、余剰の再投資 などなど、現代でも再発見・再発明されているようなアイディアが目白押しだ。 江戸時代の農民・町民のたくましさ、競争の厳しさに比べると、現代日本のなんとぬるいことか。現代に生まれてよかった(のか?)。 それに対して、幕府や藩などの行政機構の頭の固さ、保身に走る卑しさについては、現代の政治家・官僚とあまり変わり映えしていない点は、苦笑するしかない。 [more] ・「終身雇用は日本の伝統」は間違い。江戸時代の奉公は「年功序列」ではあったが、同時に「能力主義」も徹底されていた。 丁稚・小僧などの「子供」は11〜14歳。そこで一旦郷に戻され、実力のある者だけが呼び戻される。次が手代で生き残れば「初登り(旅費とボーナスが付く里帰り)」。呼び戻されれば幹部候補として色んな部署を経験させられる。その後も「登り」を経て実力が認められれば地位が上がる。徹底した能力主義の競争社会だった。 ・五常を指針とした。「忠、考、悌」を除く「仁義礼智信」。身内ではなく他人同士の関係性を重視したためと思われる。(身内意識は腐敗につながる?) ・積小為大。「大きなことを為したいならば、小さなことを怠らず務めなさい。小人は大きなことを望み小さなことを怠るから、成し遂げられない」 ・コンサルタントの限界。実質的な権限(司法、立法権)を武士が握っていて、重要なポイントを押さえられない。権限移譲のための賭けに出る。成田山に雲隠れ。 ・メディアとしての銅像。偉大な教えも、やがては後継者によってゆがめられ、あるいは都合の良い解釈をされ、矮小化してしまう。単なる道徳の話になったり、精神論だけになったり。 ・豊田佐吉は父の影響を受け、報徳思想に帰依していた。つまり、あのトヨタにも金次郎の教えが関わっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学・評論
感想投稿日 : 2011年7月12日
読了日 : 2012年1月9日
本棚登録日 : 2011年7月12日

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