悪魔の舌

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  • 青空文庫 (1999年1月23日発売)
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この物語は、語り手が一通の電報を受け取ることから始まる。其処には「『クダンサカ三〇一カネコ』」と記されていた。語り手は不思議に思いつつも、九段坂へと向かうことを決める。しかし、九段坂にて幾ら待てども、「カネコ」は現れなかった。(「カネコ」というのは語り手の友人であり、密接に関わっても尚、得体の知れない奇異な人物である。)語り手は、愈々「カネコ」の家を訪ねようと、彼の家が近くにあるという、富坂へ向かった。彼の家の前まで来ると、警官が出入りしており、「カネコ」が自殺したことを聞かされる。そこでふと、語り手は先程受け取った電報に違和感を抱いた。彼は再び九段坂まで戻り、三百一番目の石蓋を調べたところ、なんと「カネコ」の遺書が見つかったのであった。小説内では、以下に其の文書の全文が掲載されていた。此の先は幾分か心胆を寒からしめる描写が含まれるため、苦手な方はご容赦願いたい。

「友よ、俺は死ぬ事に定めた。」から始まる「カネコ」の遺書には、彼の出生から家族構成、自分の発症した妙な病気に至るまで、事細かに記されていた。彼は奇妙な物を好んだ。土や壁などの無機物から、蛞蝓や蛙蜿、蚯蚓や地蟲まで、これらが彼の食欲を満たしたのだ。彼の母が死んでから、其の悪癖は更に悪化の一途を辿った。そんな或る日、「カネコ」は健康的な、至って普通の食事が不味く感じることに気がついた。何故食事がこんなにも美味しくないのだろうか、何の気は無しに、彼は鏡に向けて舌を突き出してみた。刹那、彼の目には信じ難いものが映った。其れは自分の舌である筈だった。しかし其処にあったのは、大層おどろおどろしく描写される、まるで悪魔のような舌だった。其の後、「カネコ」は蟲や土を喰うだけでは満足出来なくなっていく。すると、彼の中で或る一つの恐ろしい考えが浮かんだ。「『人の肉が喰ひたい。』」。彼は悪魔の舌が唆すままに、人肉への関心を抑えられなくなる。そして、遂に人肉を食してしまうのだった。其の事実が彼の人生を変えた。
「カネコ」の遺書の中で語られた家族について詳しく読むことで、終着点として訪れる終わりで読者は瞠目することになる。
内容としては些か刺激が強く、カニバリズムを含む悲劇の怪奇譚であるが、巧みな伏線回収と繊細な情景描写によって描かれた此の作品は、短編ながらも村山槐多の世界観にどっぷり浸かれる素晴らしい小説であるため、是非ともお勧めしたい一冊である。

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感想投稿日 : 2019年10月16日
本棚登録日 : 2019年10月16日

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