映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)
- 光文社 (2022年4月12日発売)
Audible利用(7h51m)
読了まで2日間(1.1倍速)
ここ10年、絵本の読み聞かせ以外の読書が思うようにできなかった。新しい作品に触れる余裕もあまりなくて、読書も映画も再読や再鑑賞がメイン。
1ヶ月ほど前にAudibleに入って、家事時間や移動時間がまるごと読書時間になることに感激した。聴く速度も、自分の耳に心地よい設定を細かく選べる(私は1.1倍が好き)。なんて便利な世の中だろうと喜んでいた時に目にとまったのがこの本だった。
倍速視聴なんてありえない?
倍速視聴は当たり前のこと?
現象の紹介だけでなく、「倍速視聴は当たり前」という風潮を産んだ社会的背景についての考察も興味深い。「わかるなぁ」という部分も腑に落ちない部分も「それは今に始まった話ではないのでは?」と思う部分もあって、私は過渡期の人間なんだなと思いながら読んだ。
私は映画の倍速視聴をしたことがない。今のところはするつもりもない。もし倍速視聴したら悪いことをしているという後ろめたさを感じる気がする。当たり前の行為とは思えない。
一方で、「タイパ」を求める気持ちは確実にある。
実際に家事しながら毎日1.1倍速でAudibleを聴いてるし(この本も!)。夜中に『13日の金曜日』や『ハロウィン』をBGM代わりに「繰り返し視聴」「ながら視聴」している。
若い頃は洋画は字幕派だったが、今ではすっかり吹替え派。洗濯物を畳んだりアイロンをかけながらでも観やすいからだ。
サブスクの普及で映像作品が供給過多となり、効率良く観るべき作品を見つけたい気持ちもよくわかる。
私はYouTubeのファスト映画チャンネルは観ないが、映画解説チャンネルをチェックして次に観る映画を決めることはある。
ファスト映画への個人的嫌悪感や法的問題は別にして、「失敗を回避したい」「自分の観るべき作品を効率良くリスト化したい」「短時間で観た気になりたい/わかった気になりたい」というチャンネル利用者の欲求を考えれば、どちらのチャンネルでも起こっていることにさほど違いはないのではないか。
「結末を先に知っておいて、安心して最初から観たい」という感覚も、何となくわかる気がした。
「心のカロリーをあまり使いたくない」という意見から、作品の量だけでなく、情報過多・刺激過多な作品に疲れてる人が結構多いのだなと思った。
細部まで鮮やかで情報密度の高い映像、全ての「間」を埋め尽くすようなスピード展開、相次ぐどんでん返し、山盛りの説明台詞と伏線……といった近年の映像作品を日々大量消費していれば、防御反応のようなことが起こるのは当然かもしれない。
かといって、「間」や「描かれていない部分」を楽しむ映画作りや視聴スタイルに戻ろうと叫んだところで、それが今後主流になることはなさそうで、私はそれが寂しい。
作品ではなくコンテンツ、鑑賞ではなく消費、倍速視聴は仲間とつながるための/コスパの良い個性を手に入れるための生存戦略だ……という話を延々と読んでいるうちに、久しぶりに映画館で映画を観たくなった。何を観るかも決めずにフラッと入って、その時かかっている映画を観る。この本を読んだ後では、そんな何でもない行為がこの上ない贅沢に感じる。
- 感想投稿日 : 2023年2月6日
- 読了日 : 2023年2月6日
- 本棚登録日 : 2023年2月6日
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