新装版 とらんぷ譚 (2) 悪夢の骨牌 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2010年2月13日発売)
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感想 : 25
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幻想文学の金字塔、とらんぷ譚のクローバーに相当する今作の名は『悪夢の骨牌』である。『幻想博物館』と同様に連作短編として物語が動いていく。――ゴシック風の豪奢な洋館にて藍沢家の婦人、令嬢を中心に催されるサロンから、いささか突飛とも言える「戦後」の展開を踏み、やはり最後はどこか戸惑いながらも惹かれずにはいられない読了感を迎える。泉鏡花文学賞受賞作。

個人的には、『幻想博物館』より難解で、時代的背景も掴みにくく(それは私の頭が悪いからである)、幻想というよりは「地」と「異界」の反転に翻弄され、ぐるぐると彷徨っていただけのようにも思える。しかし、四章に区切られたうちの二章「ビーナスの翼のこと並びにアタランテ獅子に変ずること」の話はどれも琴線に触れ、殊に「大星蝕の夜」は定期的に読みたくなるくらいお気に入りになっている。馨しき令嬢の柚香の欲望の好餌になってゆく男たちの翻弄ぶりが、そしてなによりもサロメじみた柚香の云為がコケティッシュで魅力的なキャラクターになっている。

ところが、第二章から先の展開は、今までの流れから考えると、いささかの崩壊を見せ始める。今まで向けられていた夢魔の館は何処へ・・・次々と展開される「戦後」に「時間旅行者」、「戦後史の原っぱ」・・・・・・・と、その突飛さに最初は困惑した。ここの部分は読了後もまだよく分かっていないフシがあるが、解説で種村季弘が述べている通り、さながらそれは螺旋階段というか、エレベーターというか、ぐるぐるぐるぐると回ったり、上がったり下がったりと、その「地」と「異界」の変化に困惑し、不可能をこれでもかと押し付けてくる。が、それが中井英夫の小説の醍醐味であり、魔術であるらしい・・・・・・。この不可能を楽しめる余裕は、読書中の私にはあまりなかったかもしれない。

ただ、中井英夫がとらんぷ譚の中に手放しに「戦後」のノスタルジックを織り交ぜたのに、今作の文学的価値があると思う。『彼方より』は未読なので、彼の戦争に対する思いを改めて知った時、私の中で『悪夢の骨牌』は再び驚くべき反転を見せてくれるのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月16日
読了日 : 2021年12月16日
本棚登録日 : 2021年7月12日

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