第26回の鮎川賞受賞作である。新人らしく気負いが見える大型トリックで面白い。現実の世界では成り立たないようなトリックを紙面で違和感なく作り上げるところが本格ミステリの醍醐味だ。その点は本作は成功している。舞台がU国A州などと書かれていることもワザワザ架空のお話ですよということを強調している。そしてそのことが「真空気嚢」という架空技術を受け入れやすくしている。ある意味このSF的ともいえる設定がちょっとした鍵になっているところが面白い。そして、少し理屈っぽ過ぎる感はあるが、緻密に重ねられていく推理の試行錯誤がよく出来ていて面白かった。こういう論理展開を見せられると読者の思考は枠にはめられてしまう。実にうまいやり方だ。惜しむらくは、謎の強調の仕方がイマイチであったことと手掛かりが雑多なものの中に埋もれてしまっていることだろう。そのため、解決が示されても「なるほど」とは思っても、驚愕するような驚きがない。そこが上手く書けていれば、☆☆☆☆であっただろう。ちょっと残念であるが、よくできた作品であることは間違いない。次に期待してしまう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ミステリ
- 感想投稿日 : 2020年7月19日
- 読了日 : 2020年7月19日
- 本棚登録日 : 2020年7月19日
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