戦中の資料をもとに紹介される、当時の味わい深い検閲エピソードが山盛り。
猥褻書の判断基準を上司に尋ねると、「自分の下半身の反応」と返され、連日、大量に読んでいった結果、すっかりエロ評論家と化す検閲官。
映画の検閲官は、「いつ映画化されるか、いつ自分の受持ちになるか知れないから」と、話題の小説を普段からチェックするアホみたいな真面目さ。
で、最高にバカバカしいエピソードは、軍旗をめぐる記事の話。
『加納部隊長は敵弾に中つて戦死したが、加納部隊長は死の直前軍旗をにぎらしてくれといつたから、軍旗をにぎらしたら、につこり笑つて死んだ』
という記事が検閲にかかる。で、「軍旗は聯隊を示すから○○にせよ」と軍旗を伏字にされた結果、
『加納部隊長は死の直前○○をにぎらしてくれといつたから、○○をにぎらしたら、につこり笑つて死んだ』
という、悲壮感も何もない、なんだか間抜けな話になってしまった。
面白エピソードがいろいろ出てきて楽しい本なのだけど、それだけでは終わらない。
検閲される側も、せっかく作ったものを発禁にされるのを避けるため、事前に検閲官に「お伺い」を立てるようになり、やがては空気を読んで、引っかかりそうなものを作る事自体を避けるようになる。これが空気の検閲。
今の時代だって、ちょっとしたきっかけで、「空気の検閲」が支配する世の中になるかも知れない。そうなるのは嫌だなあ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
評論
- 感想投稿日 : 2019年11月2日
- 読了日 : 2019年11月2日
- 本棚登録日 : 2019年11月2日
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