原発「危険神話」の崩壊 (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所 (2012年2月15日発売)
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感想 : 22
5

ほとんど全てに同感する。
原発再稼働に関する議論でいまだに正義の味方っぽい口調で「安全は保証されたのでしょうか?」 などとコメントしている連中には、科学的論理的な反論は全く出来ないだろう。

ちょっと心配なのは、あまりにも筆者の論敵にたいする攻撃が容赦なさすぎるので、打ち負かされた人々は、沈黙を守れればいいほうで、多くは論理をすり替えたり言葉尻をとらえたりして何とか一言反論したくなるだろう。建設的な議論にはなりそうにない。

それにしても、物事の本質をシンプルにとらえ巧みな比喩に表現する能力は素晴らしいと感じる。
88ページには、朝日新聞の編集長が脱原発についてのコメントを紹介している。すなわち、①原発をやめるべきか②原発をやめることができるか、という問いに対して、通常は②→①と考えるが、今はまず①について覚悟を決めて、②が突きつける課題に挑むべきだと宣言しているらしい。
これを、①戦争をやるべきか②戦争に勝つことができるか、という日米開戦前夜の設問に置き換え、英米に勝てるかどうかを考える前にまず鬼畜米英を放置しておいてはならぬという覚悟を決めろと迫るレトリックと同一だと指摘する。確かに同じだ。
戦時中に過激に戦意高揚記事を書き、最後まで本土決戦を強硬に主張し、敗戦が決まると一転して「平和国家を確立せん」という社説を掲げ、70年代には原発推進キャンペーンを張り、今回の原発事故が起こると「原発ゼロキャンペーン」を張る朝日新聞。本質的な主義主張ではなく、強者(軍部やGHQや、今は読者=大衆)への迎合と現実離れした理想論。なぜこんな幼稚な新聞が日本で一番売れ続けているのかますます不思議がつのる。
今話題の小沢一郎も、これの同類だろうか。実は本質的な国家観は二の次で、結構変節する。その時々の大衆に迎合しながら大衆をリードしているように見せかける。
更に言えば、こんなのが受けてしまう日本というのは全体主義に陥りやすい国民性だといえるのではないだろうか。実は右翼でも左翼でも同じで、本質的な議論をすっ飛ばしてムードに乗ってしまう。本書でも繰り返し指摘された「空気」というのは恐ろしいものである。

最後に、本書のタイトルにも感心した。原発が危険だ危険だというマスコミや世論は、ほとんど神話の世界に入っている。もっとも神話という表現はまだ麗しさが漂うが、現実は魔女狩りか異端審問がはびこる全体主義に侵されているということを知らせれ暗澹とさせられる本だった。5つ星。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 核・放射線
感想投稿日 : 2012年5月21日
読了日 : 2012年5月21日
本棚登録日 : 2012年5月21日

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