沖縄密約: 「情報犯罪」と日米同盟 (岩波新書 新赤版 1073)

著者 :
  • 岩波書店 (2007年5月22日発売)
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感想 : 21
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権力とは恐ろしい。使い方を間違えれば現在のようなウクライナ戦争も起こるし、北朝鮮のように国民が飢えてでも核ミサイルを飛ばそうとするなど、世間一般には間違っていると断言して出来ることが世界中で頻繁に発生する。
我が国の権力の頂点と言えば、民主主義国家だから原則的には国民にあるのだが、その代表たる国会そして内閣総理大臣が実務上の最高権限となる。政治家たるもの誰しも最終的に目指すのは総理の地位であろうし、それを手にするためであれば汚い手、禁じ手を使う。
本書前半は池田総理から佐藤栄作へと権力の移り変わりに際して「利用された」と言っても過言ではない沖縄変換問題、沖縄密約の発生経緯を辿っていく。当然、沖縄を返還してほしい日本と基地として失いたくないアメリカの間の外交問題だから機密事項も多いのはわかるが、後に日本がアメリカに支払った(実質的に沖縄を金で買ったと言われる)表向きな金額とは別に、アメリカに支払った金がある。筆者はその存在に気づき国家を相手にした結果、逮捕されるという悲劇に見舞われる(執行猶予付き)。ここでも国家という強大な権力には1人の人間が立ち向かえないのが現実にあった。
なお、機密費問題に関してはその後に外務省の当事者が当時を告白したこと、アメリカ側では譲歩公開がされたことから、周知の真実として白日のもとに晒されるわけだが、それでも歴代外相はそれを認めない態度を続ける。しかし本書が言いたいのはそこではなく、沖縄という土地やそこに住まう住民たちの意思とは関係なく、国会議員の権力闘争に巻き込まれる事実についてである。
現在の政治を見ていても、日本は外交が弱いと言われる一昔、二昔前から大きく進歩しているようには見えない。寧ろ外務大臣の海外訪問のニュースからは行った国と誰と会ったかだけに注目が集まり、中身よりも外見しか見ていないのは昔も今も変わらない。だから秘密も容易に作られてしまうし国民の監視も甘い。そして中身のわからない日本の外交は弱腰とも取られる。
この弱腰傾向は太平洋戦争に負けてアメリカ占領下にあったのだから仕方ないと言えばそうかもしれないが、戦後も続く日米関係を見てわかる通り、余りにもアメリカに対して逆らえない状況は続く。確かに極東の不安定さにはアメリカの軍事力はよく効いているし、日本もそれが無ければどうなるか判らない。残念ながらそれを解決出来るのも外交力しかない。だから根本的には対外的に強い(最低でも対等に渡り合える)外交力=国力が必要だ。
現状を見れば少子化と超高齢化が続き、人口もじきに1億人を割る。若者は働く意欲を失い定職に就かないばかりか結婚もしない。地方の過疎化は益々進み空き家だらけで廃墟だらけのゴーストタウンと化していく。我が国だけが課題山積にも見えるが、それを解決している北欧の国々もある。
まずは国民が目を覚まし、自分たちの国の現状をしっかり見つめ、今後10年、30年先を見て何をするべきか真剣に考える必要がある。
話は飛んだが、国家権力に立ち向かう筆者の姿には勇気を貰える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年5月26日
読了日 : 2023年5月26日
本棚登録日 : 2023年5月24日

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