硫黄島 栗林中将の最期 (文春新書)

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年7月20日発売)
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感想 : 19
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クリントイーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」で栗林忠道中将を知った方も多いだろう。かなり上映から時間は経過したが今なお心に深く刻まれている。著者の「散るぞ悲しき」を読まれた方も多いと思うが、本書はその後、更に調査された異説や登場しなかった人物にもフォーカスしたアナザーストーリーと呼ぶに相応しい。
太平洋の孤島「硫黄島」は太平洋戦争終盤に、死傷者数が日本よりアメリカが上回った激戦地として知られる様になった。これは前述の映画などのお陰だろう。双方合わせて2万7千人近くの死者が出て今なお遺骨は全て回収されていない。徹底的なゲリラ戦を張り巡らされた地下壕から展開して、アメリカを苦しめたのが栗林中将だ。戦前は知米・親米派だった事から懲罰的な側面で派遣されたという意見もあるが、敵(アメリカ)を知り、自分たち(編成や実力)がその場所でどの様な戦いを展開出来るか(己を知り)、さらに日本の防波堤となるという曇りのない信念。これらが揃った武将でなければならなかった。彼を知れば知るほどその赴任は必然的にも思えてくる。
映画では「予は常に諸子の先頭に有り」で最後の突撃を敢行し率先垂範の将として描かれる。恐らくそうしたであろう人物像について、その後描かれた数々の書物を読めば疑う余地は無い。とは言えそんな定説的な人物像に一石を投じる様な死に際にまつわる噂、それらの検証に始まり、同島で戦後に表舞台に出ることもなく散っていった多くの英霊、長く伏せられてきた父島(小笠原兵団の管轄地)での捕虜に対する非人道的な扱いなどに触れる。表の文面だけに触れてきた私には非常にショッキングであり、反面非常に興味深い内容でもあった。できれば「散るぞ…」は先に読んだ方が良いが、戦時下での異常性を知るという意味では本書から読むのもありだろう。そして読み進める中で出くわすバロン西こと西竹一中佐の死にまつわる話は涙なしには読めない。
最後に硫黄島を訪れた両陛下の詠まれた歌は、ページをめくる手が震えてしまう。筆者は死の島のイメージから確かにそこに命を輝かせた「兵」たちの姿を白鳥の姿に見る。この流れる様な構成には涙を拭うこともできず、ただ身を任せるだけだった。心震える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年4月4日
読了日 : 2023年4月4日
本棚登録日 : 2023年2月25日

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