- Amazon.co.jp ・洋書 (1200ページ)
- / ISBN・EAN: 9780141188935
感想・レビュー・書評
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舞台はアメリカ、時代は20世紀初めであろうか。
親から引き継いだ鉄道会社の副社長として奔走する30代女性が主人公。
共産主義的政策が推し進められつつある社会、と言う架空のテーマで描いている。
もともとこの本を手に取ったきっかけは、「アメリカで聖書の次に影響を与えた本」という解説に興味を得たことだったが、読んだ感想としては、これが聖書の次というのは聖書に対する冒涜だと思う。
まず、女性である主人公の性的魅力を強調した記述が随所に見られ、主人公自身も不倫や二股に忙しく道徳観念に乏しい。
1950年代に書かれた本であり、現代とはジェンダーについての認識の相違はあるだろうが、あまりに生生しく、この本の主題に必ずしも相応しくもなければ、必要もないと感じた。
おまけに、本書は「Atlas Shrugged」のタイトルの通り「全能の神が肩をすくめる=能力のある人が共産主義的社会を見放す」という主題であるが、そもそも主人公やその恋人は世襲で親の財産と事業を継いだに過ぎず、彼らをもって「能力」を語るべきかは疑問である。
挙げ句物語中盤では、主人公自ら操縦する小型機が谷底に不時着して気絶、目を覚ましてみるとそこには全く別の文明が展開し、自分を起こしてくれた相手と恋に落ちる、とまるでジブリ映画のようなファンタジーへと展開して、これが大人の読み物かと目を疑った。
総じて読み物小説という印象で、悪くはないが、聖書とは比べるべくもない。
本書がアメリカにおいて称賛されているとすれば、その背景としては、所謂エスタブリッシュメントと呼ばれるエリート層が本書の主人公らと自らを重ね合わせ、その社会的地位の正当性を主張するために利用している、ということが感じられた。
筆者のアイン・ランドはソ連に生まれた後アメリカへ亡命し、作家のほかハリウッドの脚本などでも活躍したという。
失礼だが、本書を読んだ限りでは、ハリウッドの脚本家であっても作家と呼べるかは怪しいと感じた。
主題としても、共産主義への嫌悪に感情的過ぎる部分があり(George Orwellも同じだ)、腹落ちがしないところがある。
ボリュームと読み応えはあるが、少し期待が過ぎたようだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示