- Amazon.co.jp ・洋書 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9780375713873
感想・レビュー・書評
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トリニダード・トバゴのこのミゲル・ストリートでは、仕事という仕事をしていないにもかかわらず食うには困っていないどころか、日がな一日「名前のないモノ」を作り続ける大工や、一つの単語を延々と地面に書きつける狂人に、昼間から呑んだくれている住民がそこかしこをフラフラし、幼い主人公を魅了する。しかしそんな彼らの中でもある種の不文律は存在し、真の男である事を証明するためには見栄も暴力も辞してはいけない。そしてだからこそ、彼らがふとした時に見せる、致命傷とも言える尊くも憐れな弱さを、少年が見逃すことはない。笑えばいいのか、泣けばいいのか、とにかく困ってしまう一冊だった。イギリスとアメリカの間で揺れる植民地だからか、住民は努力を積み重ね何かを成し遂げねばならない、という西欧主義的な強迫観念に囚われているように思えるし、白人を崇拝し黒人の同胞を嘲笑する姿は見ていて痛ましい。それでもそんな彼らを嘆くでもなく、一種諦観の念を持って滑稽な姿そのままに描いた作者は、優しいのか、はたまた残酷なのか。
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”A stranger could drive through Miguel Street and just say "Slum!" because he could see no more. ”
トリニダード・トバゴのスラムでは、おとなたちが夢を語りながら、現実の日々ををぬるい苦味に晒して過ごしている。
主人公の名無しの少年の目にうつる彼らは、あっけらかんと、明日の心配なんかせずに毎日楽しんでるようで、刹那的でかっこよい。
だけれど、自分で成長をコントロールできるおとなと違い、子供の成長はmandatory。おとなたちの人生における行動と結果との交差を通して、主人公の彼らを見る目も、少しずつ変化していく。
"they getting old and they get frighten and they want to remain young."
大好きなおとなの友達がいる、時間が停滞するミゲルストリートから、主人公はやがて去っていく。
決して嫌いではないのだけれど、留まる理由が彼にはなくて。
インドのスラムで暮らしてみて感じたこと。それは、ここのおとなたちの多くには、自分の人生についての「未来に向かう時間の感覚」が欠けている、ということ。
”Well, what you expect in a place like this?" という本書内の台詞のように、彼らの生活は、「今日」の繰り返し(経済的には勿論)。
その繰り返し、未来に向かわない空気を、本書を読んでいて生々しく思い出した。
ただ私がスラムでであったおとなたちは、自分自身の未来にはさして興味がないのだけれど、こどもの未来には夢をもてるようでした。
本書では少年の眼差しで物語が語られるから、彼の周りの一風変わったおとなたちが、少年をどうまなざしていたのかはわからないけれど・・・ラストの少年の母親の言葉には、インドのあのお母さんたちと同じ匂いを感じた。