War and Peace (Wordsworth Classics)

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  • Wordsworth Editions Ltd
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  • Amazon.co.jp ・洋書 (1024ページ)
  • / ISBN・EAN: 9781853260629

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  •  ジョナサン・フランゼンの『フリーダム』で、パティという中年女性がこの小説を読んでいる。心の病を負った彼女が治療の一環として自伝風に過ちを振り返る章において、夫の友人であるリチャードと一線を越える前の晩に、ナターシャ・ロストフがお人好しで抜けたところのあるピエールではなくて、伊達男のアンドレイと恋に落ちるシーンを読んでいたことを告白したパティは、それが彼女とリチャードとの間に起こったことになにがしかの影響を与えたのではないかと考えている。夫の出張中に彼の友人と関係を持った現実から逃避し、その窮状からの救いを求めて、パティは『戦争と平和』の残りの箇所を一息に読み終えてしまう。ナターシャはアンドレイと婚約したがアナトールという悪い男にかどわかされ、失意のうちに戦場へと赴いたアンドレイはそこで致命傷を負う。その短い余命をナターシャに看病され、アンドレイは彼女を許す。そこに戦争で囚われの身となり深い思考を身に着けて成長したピエールが現れて彼女に求婚し、子宝に恵まれて小説は幕を閉じる。まるでその小説の筋書きを後追いするみたいに、パティは出張から帰ってきたピエール似の夫ウォルターと(見た目上は)一層仲の良い夫婦となる。
     私はこの箇所を読んで、ふだん読書をしないパティに"three marathon reading days"で読み切らせてしまうこの小説の魔力を実地に体験してみたくなり読み始めてみたが、実際には読み終えるのに一か月以上も掛かってしまった。『戦争と平和』のナターシャと似た境遇にあるパティと、そうでない私とでは没入度が違うのは当然ではある。かわりに私が一番わくわく、というか読んでいて心締め付けられたのは、ナターシャの兄であるニコラスのギャンブルの場面だ。ニコラスのいとこであり、ニコラスのことを慕ってもいるソーニャはドロコフの求愛を拒むが、その腹いせとしてドロコフはニコラスをトランプ賭博へと誘い込み、賭け金を徐々に吊り上げていく。これは単にお金だけを賭けているのでなく、ソーニャを巡る男のメンツを掛けた賭けでもあるわけだが、まるで度胸試しで引くに引けなくなった自分を見ているようで、あやうくて、思わず目をつむりたくなってしまった。結局、ニコラスは賭けに負けて、ドロコフに対する莫大な借金を父に肩代わりしてもらう。ニコラスはこの賭けの代償を作中で払い続けることになる。終局において、他界した父の遺した借金を今度はニコラスが受け継ぎ、その借金を返済するために貧しいソーニャではなくて莫大な遺産を持つプリンセス・メアリーと結婚することで、賭けの落とし前がようやくつく。美しい構成だ。

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