愛と怒り 闘う勇気: 女性ジャーナリスト いのちの記録

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000220156

感想・レビュー・書評

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  •  筆者の松井やよりさんは、ほとんど自分と同世代で、同じ頃に社会人となり、同じ世代のぶつかる諸問題に同じようにぶつかった人です。
     ただ、残念なことに少し早く亡くなってしまいました。
     
     この本を読んだ感想を元に、参画メールマガジンに「クローのおんな・おとこ随想」というので書きました。行政がからんでいるメールマガジンだけに、言いたいことが言えなかったところもありますが、それを引用しておきます。

     松井やより(1934-2002)さんが亡くなって10年になる。いまや「松井やより」と言っても知らない人が多いだろう。1961年に朝日新聞社に入社して、1994年に定年退職した。女性で定期入社して、定年まで勤めた第1号だそうだ。
     松井やよりはクリスチャンの家に生まれた。父は山手教会を興した平山照次、母は平山秋子で、6人兄弟の長女である。
     朝日新聞の記者として、公害問題などを追及していたが、1970年代はじめごろからウーマン・リブに傾倒していくようになる。もともと新聞社の中は男社会と言ってもいいような状態だったが、ジェンダーの視点で記事を書くようになると、「とたんに社内の男性の目が冷たくなったのを感じた」という。「彼女はウーマン・リブだ」「彼女は過激すぎる、極端すぎる」などのレッテルが貼られ、赴任してきた新人の女性記者に、支局長が「松井やよりのようになってはだめだ」とまず説教するほどの異分子にされてしまったという。

     これにめげずに松井やよりは女性の視点で記事を書き、1980年には「女性差別撤廃条約」に関するスクープをする。日本政府は女性差別条約の署名を見送る方針であることを、入念な取材によって確認して書いた記事が、一面トップになったのだ。これが大きな反響を呼び、結局、一ヶ月後に署名するという閣議決定が行われ、5年以内に批准するために男女雇用機会均等法が制定され、家庭科の男女共修、国籍法の改正が行われた。一つの記事が国の政策を動かしたのだ。

     その後も、松井やよりはアジア諸国を歩き回り、1981年からはアジア特派員として、シンガポールに居を置きながら各地を駆け巡る。ポルポト派によって壊滅状態になっていたカンボジア訪問で、NGOの果たしている大きな役割に気づき、後に自らもNGOを立ち上げる。このアジア各地の取材から、日本企業による公害輸出、買春ツアー、戦争中の慰安婦問題などにつきあたる。これが定年後にアジア女性資料センターの立ち上げ、1995年の北京世界女性会議での活躍につながり、慰安婦問題につながるVAWW-NET(Violence Against Women in War-Net Work)設立につながる。

     これが2000年12月に開廷された「女性国際戦犯法廷」へと発展していく。この法廷の意義は、日本ではマスコミが意図的にとりあげなかったために、十分に知られているとはいえないが(注)、民衆による東京裁判の継続として大きな意味をもっている。彼女は、この法廷を開くためのキーパーソンとして超人的に動き回り、その役割を果たした。

     このような激務が命を縮めたのかもしれない。2002年にアフガニスタンを訪問したときに体に異常を感じて、帰国して検査したところ末期の肝臓ガンと判明。やよりに遺されたのは80日あまりしかなかった。

     松井やよりの提起した問題の多くは、歴史的には多く決着しているが、現代の政治状況の中では決着していない。(※韓国のおける従軍慰安婦問題での日本への反発、また、最近では河村名古屋市長の「南京大虐殺はなかった」発言など枚挙にいとまがない。)
     アジア女性資料センターは現在も活動を続けており、松井やよりの仕事は引き継がれていくであろうし、また、引き継がれなければならない。

    ※ この部分は行政サイドの意向で削った部分

    (注)NHKは2001年1月放映の、「問われる戦時性暴力」として放映されたが、よく知られているように、内容は大きく改変され、VAWW-NETジャパンは「名誉を傷つけられたということで裁判を起こした。判決はVAWW-NET側の敗訴で終わったが、公共放送と政治権力との関係で多くの問題を提起した。

     本稿は松井やよりの自伝的著作「愛と怒り 闘う勇気」(岩波書店)などを参考にしました。

  • この本は人権ジャーナリストの故・松井やより氏のまさに一生を語る本。
    あの「朝まで生テレビ」にも出演したそうです。

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