グローバル時代の歴史学

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000226400

作品紹介・あらすじ

国民国家とともに発展してきた歴史学は、大きく変貌を遂げつつある。「グローバル・ヒストリー」は、新たなパラダイムたりうるのか。歴史における「社会」と「自己」の関係をどう捉え直すべきなのか。アメリカを代表する気鋭の歴史家が、二〇世紀の史学史を通観しながら、認知科学など最先端の周辺諸科学との対話を試み、歴史叙述の"これから"を探求する。

感想・レビュー・書評

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  • 19Cからの歴史学の流れを概説し、現代の歴史学において主流である文化理論の問題点を提示し、著者なりの解決策を提示した本。

    文化理論の弱点として、「自己が消失していること」が挙げられているが、本作品ではそれに対する建設的な批判が与えられているわけではなく、感情的な議論であった。問題を乗り越えたというよりは、別の考え方を示すにとどまったと言った方がよい。

    文化理論の大元になったフーコーの「言語、文化的な規定が人間を支配する(自己は存在しない)」という考え方と、著者の「自己と社会が相互に作用する(自己にも一定の裁量はある)」という考え方の戦いのように見えた。

    なので、フーコーの作品を読んでみないと理解が深まらないと感じた。


    認知科学の話は、本当にあのリンハントなのかと疑いたくなるものだったが、それを前面に押し出していたわけではなかったので安心した。


    まあ、ともかく、結局哲学に帰ってくるのだなあという感じだ。

  • リン・ハントの歴史学の入門書ともいえる「なぜ歴史を学ぶのか」が面白かったので、こちらも読んでみた。

    内容的には、「なぜ歴史を学ぶのか」をより専門的にした感じで、対象は、一般人ではなく、歴史学を学ぶ人、さらには社会科学を学ぶ人という感じか。

    原題を直訳すると「グローバル時代に歴史を書くということ」となる。

    「なぜ歴史を学ぶのか」を読んだときは、ハントは、いわゆる「グローバル・ヒストリー」を支持しているのかと思ったが、これを読むとそこまで単純な話しではない。

    マクロ的なアプローチである「グローバル・ヒストリー」であるが、それは経済的なものを中心とした説明になりがちであり、それまでの文化アプローチの成果を踏まえていないことを批判しつつ、グローバル・ヒストリーをミクロ的なレベル、人の内面、感情も踏まえたうえで、ボトムアップ的にアプローチしていくことを提案しているのかな?

    つまり、マクロ経済的歴史を人の感情とか、脳神経科学などの成果も踏まえつつ、文化的な解釈学も踏まえた統合的にアプローチしようという話し。

    また、結構な分量をフーコーのアプローチの批判をおこなっている。ハントのフーコー批判は、必ずしも適切でないところもある気がするものの、おそらくアメリカにおけるフーコー理解を踏まえたものであろうと思われる。それだけ、今の歴史学において、フーコーの影響が巨大なことの反映ともいえる。

    壮大な試みともいえるが、ある程度、イシューをしぼれば、可能なものかもしれない。

    実際、最後のほうに著者が専門とするフランス革命をこうしたアプローチの事例として、再解釈する試みがなされている。この説明は試論的で短いものとなったいるが、そのうち、これがまとまったものになるといいなと思った。

  • 難しく感じる箇所も多々あるものの、これから歴史(教育)ってどうなっていくの?と思っている人には、考えるヒントがぎゅっと詰まっている本。構成はシンプルなので、専門知識がそこまでない場合でも手に取りやすい。

  • 欧米歴史学の現在地を示す小書。本書の内容要約と評価は、「訳者あとがき」に、簡にして要を得たまとめがなされている。

    「ハントによれば、現代の歴史学は、危機の時代ないしは不確実性の時代を迎えている。この危機や不確実性は、言語論的転回以降の歴史学の自己省察の結果、歴史学の目的それ自体が揺らいでいることによる。すなわち、現代歴史学の状況は、既存の四つのパラダイム(マルクス主義、近代化論、アナール学派、アイデンティティの政治)を批判してきた文化理論に基づく歴史学(文化論的転回)が活力を喪失しており、有効なパラダイムとしての代案を提示できないままに、グローバル・ヒストリーだけが「大きな物語」の座を独占することになっている。このグローバル・ヒストリーが文化論的転回以後の歴史学の成果を継承することもなく、経済決定論的アプローチを用いたトップダウン的視点からおこなわれているという。それに対して、ハントは「下からの(ボトムアップな)」グローバル・ヒストリーを提唱しており、それは、トップダウン型の理論構築への指向性と断片化した個別実証研究との「中間路線」をとるものとされる」(p.165)

    「他方で、ハントは「自己」と「社会」との再検討へと向かう。…「転回」以降の歴史学は、「自己」へと主体の内面に深化していく方向性をとっている。いわゆる「ディープ・ヒストリー」と呼ばれるものは、人間の心理的次元からの歴史の巨視的な把握であり、ハントは、この「自己」をディープに探究するために心理学・神経科学・認知科学などを含む周辺諸科学との対話を進めるべきだとする」(pp.165-6)

    前者のグローバル・ヒストリーについて、「ボトムアップ」という視点の重要さに共感を覚える。また、後者の「自己」と「社会」の再検討という視点は、非常に興味深く読めた。ただ前者は自分のグローバル性の無さに愕然として、途方に暮れるのみである。後者は、まだなんとか自分の研究に取り込めそうな気はする。

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著者プロフィール

アメリカ歴史学会会長

「2002年 『ポルノグラフィの発明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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