ジャック・ラカン 転移(上)

制作 : ジャック=アラン・ミレール 
  • 岩波書店
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感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000240512

作品紹介・あらすじ

一九六〇年に始まったこのセミネールでラカンは、精神分析の根幹現象である「転移」に本格的に足を踏み入れる。分析者と被分析者の二項関係に基づく「転移」理解を乗り越えんとするラカンの眼前に浮かび上がったのは、プラトン『饗宴』で描かれる「愛」であった。上巻では、古典作品の斬新な解釈を通じて、愛する者と愛される者の関係を欲望の乱反射として描き出す。ソクラテスは愛の何を知っていたのか?欲望と「知」をめぐるスリルに満ちたセミネール第八巻。

感想・レビュー・書評

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  • ジャック=アラン・ミレール編によるジャック・ラカンのセミネールシリーズは、翻訳者自身がラカンをさっぱり理解しないままに翻訳してしまった弘文堂の『エクリ』(いいかげん、ちゃんとした新訳を出して欲しい)などよりもはるかにわかりやすく、面白い。
    しかし岩波書店はさすがというか、いつものように、売り切れるとそのまま絶版にして放置してしまう。現状、既に翻訳されて岩波から出たラカンのセミネールも、幾つかの巻は入手不可能になっている。私も残念ながらこれまで4タイトルしか入手できず、肝心な数タイトルは読めてない。
    従って岩波書店から新しくこのシリーズが出版されたら、ただちに購入しておくべきなのである。
    そういうわけで「直ちに入手した」本書は、「転移」なる有名な事象を扱っている。
    この、患者と分析医とのあいだに生じてしまうのっぴきならぬ愛情関係(もちろん、それは病症を如実に示すものである)について、フロイト以降の精神分析ではずいぶん問題視されているが、門外漢の私にはあまり実感のない話ではある。
    さて本書のセミネールで、ラカンは転移という「愛」の問題を論じる。ラカンと愛。なんだか奇妙な組み合わせというか、どうなってしまうんだろうという感じだ。
    けれどもこの上巻では「転移」現象についてはまだ少ししか触れられておらず、9割くらいはプラトンの『饗宴』の読解に当てられている。
    明白にひとつの書物を追いかけているため、この巻はいつものラカンよりもずっとわかりやすいように思った。
    そしてプラトンから由来してくる「アガルマ」の概念は、なかなか面白そうだ。興味深い。下巻ではこの概念がどのように追究されていくのだろう。
    ラカンと言えば、日常世界的な時空間を超越して「シニフィアン」のあいだを瞬間移動で飛び回っているような、野放図な思考の拡張があって、そのスピードの超絶性が「難解さ/理解不能さ」の原因のひとつでもあるのだろうけれど、いったんこの思考の飛躍の妙味に慣れてくると、それがへんに魅力的に感じられてくる。これがラカンの人気の秘密だろう。
    下巻ではいよいよそんな「奇妙な思考」が繰り広げられるのだろうか。楽しみになってきた。

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