日露戦争 起源と開戦(下)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000242684

作品紹介・あらすじ

下巻では、日本参謀本部、日露の外務省、ロシア皇帝と韓国皇帝ら、それぞれの思惑と主張、さらにその人物像をも検討しながら、日露戦争開戦にいたる過程を詳細に解き明かす。そしてついに朝鮮戦争としてはじまった戦争の、開戦後一カ月の動きを日を追って再現した。

感想・レビュー・書評

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  •  本書を読んで驚いた。本書の考察が正しいのならば「日露戦争」は日本が韓国を我がものにするために積極的にしかけた「侵略戦争」といってもおかしくないものではないか。
     本書は、「ロシア史家」である著者が、多くのロシア内部の文書を駆使して解析・考察したものなのだろう。
     おそらく1991年のソ連崩壊以降に公表された「皇帝ニコライの日記」や多くの「公文書記録」によるものと思われる緻密な「日露戦争直前」のロシア内部の動きは、まるで日々の動きを逐一追うようなリアリティーを持っている。
     「皇帝ニコライ」「陸相クロパトキン」「ウィッテ」「ベゾブラーゾフ」「ヴォーガク」「アレクセーエフ」「アバザー」「ラムスドルフ」、それぞれの詳細な動きと意見は、「注記」の番号がついており、その内容が単なる推測ではなく、具体的な資料に裏付けられていることをあらわしているが、この経過によると「ロシア」は日本との戦争をあくまでも避けようとしていたのではないか。
     司馬遼太郎は「坂の上の雲」で、「大陸を我がものとしようとする暴虐なロシアと、それと戦う可憐な日本」を描いたが、あの内容はフィクションであり、歴史的には間違いだったのか。
     本書で浮かび上がる「ロシアの国家像」は、権益がある「北満州の利権維持」のみを考え、あくまでも「日本との戦争」を避けようとする「ロシア」と、「韓国」を完全に我がものとするとともに満州へも侵攻しようとする「日本」の姿が浮かび上がる。
     その後の昭和20年の「帝国の破綻」を知る我々としては、大陸における昭和の戦争は、この時代からの延長線にあったことが改めて確認できるが、「司馬遼太郎」は、「昭和の軍部」を批判し、「日露戦争」の時代を「美しい日本」として賛美していたが、あの視点は間違いであったのかと感嘆する思いを持った。
     本書の視点が正しいのならば、昭和の時代の「韓国・中国への大陸政策」の策源が、この時代にあったことは間違いがないし、その路線を戦略的に推し進めるための中心となったのは、「外務大臣小村寿太郎」なのだろう。
     この時代に「日露戦争」を構想し、「ロシア」に望まぬ戦争を吹っかけて、勝利し、「韓国」を手に入れて、その後の「大陸進出の路線」を軌道に乗せたことは、歴史的事実ではあるが、果たして「日本」のためになったのかどうか。その後の歴史を知る私たちとしては、ため息が出る思いを持った。
     本書は、司馬「坂の上」でつくられた「日露戦争」のイメージを覆す、すごい本である。資料考証も裏付けもあるし、もっと読まれるべきであるとは思うが、上下巻それぞれが「定価¥6.800+税」とは、あまりにも高い。
     このような良書は「文庫」として、安く、もっと多くの人に読まれるべきではないかとも思った。
     本書を、歴史を教えてくれる良書として高く評価したい。久しぶりに歴史を堪能する思いを持った。

  • 2010.03.21 朝日新聞で紹介されました。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授。1938年生まれ。東京大学文学部卒業。著書『金日成と満州抗日戦争』(平凡社)、『朝鮮戦争全史』『日露戦争 起源と開戦(上・下)』『北朝鮮現代史』『平和国家の誕生』『韓国併合110年後の真実』(岩波書店)、『朝鮮有事を望むのか』(彩流社)、『スターリン批判1953~56年』(作品社)、『アジア女性基金と慰安婦問題』(明石書店)、『米朝戦争をふせぐ』『安倍首相は拉致問題を解決できない』『慰安婦問題の解決に何が必要か』(青灯社)ほか。

「2022年 『日朝交渉30年史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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