検証 福島原発事故 官邸の一〇〇時間

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000258524

作品紹介・あらすじ

二〇一一年三月一一日午後二時四六分、東日本大震災発生-。この巨大地震・津波に続き、東京電力福島原子力発電所が軋みを上げた。そのとき国家権力の中枢では、驚くべき事態が進行していた。打つ手の先を走って悪化する事態に翻弄される官邸、しかし政治家を支えるはずの官僚組織は機能不全を起こしていた。言葉を失う東電幹部、責任を回避する専門家たち、そして各事故調査委員会で懸案となった「東電撤退」問題の真相は?首相はじめ内閣危機管理監など当事者への実名による徹底的な取材と、その証言を裏付けるメモや資料から炙り出す「運命の一〇〇時間」。

感想・レビュー・書評

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  • 本書など原発事故関連の報告書やルポを読むと、人災の側面が大きいことが分かる。
    それは武黒フェローを含めた東電本店、それから政府に専門的な助言をするための保安院や原子力安全委員会。そしてSPIEEDIを報告しなかった文科省。無能すぎる。
    官僚主義に染まってしまうと、問題が起きたときの対応が何もできなくなるんでしょうね。
    民間の東芝が、いつかプラントメーカーである自分たちが呼ばれるのではないかと、チームを組んで自主的に現地の近くまで行っていたのは象徴的。官僚では絶対にあり得ない。
    また本書を読むと、今回の事故では理系出身の菅首相でなかったら、もっと深刻な事態になったのではないかと思ってしまいます。結果はともかく、決断の速さとリーダーシップは見習うべきものがあるのではないかと。

  • ・リーブルなにわで目について興味を持った。岩波だから、あまり無責任な煽り本ではないだろうというブランドへの信頼もあった。ちなみにこの本の著者は朝日新聞の記者。

    ・3.11発生後の100時間=約5日間の官邸での原発事故への対応の様子が克明に描かれている。「描かれている」とひとくちに言ってもその信憑性が大事なわけだが、本書では菅元総理をはじめとする関係者へのインタビュー、そして彼らのメモやプレスリリース等を照らし合わせることでその裏付けとしている。もちろん、そのインタビューなりメモの中身すらデタラメ、あるいは巧妙に口裏を合わせたでっち上げという可能性もゼロではないが、今は本書での記述を信用して以下を続けることにする。

    ・東電、保安院などの無責任、と言うより無能ぶりに呆れると同時に、このような事態が起こった時の対処が手探りに近い状態で行われていたということに慄然とする。また、本書で描かれている東電首脳陣の無策、無責任っぷりが本当であるならば、そのことに対する責任が問われていないという現状に憤りを感じる。菅さんが怒鳴ったというのも、よっぽどの状態だったというのも本書を読むと分かる。と言うより、関係者で東電や保安院などの使いものにならない連中に対して思わず声のトーンが上がらなかった関係者なんているのか?

    ・この本を読む限り、管さん、かわいそう過ぎない?

    ・災害発生時に必要なのは、何が起こっているのかの状況把握はもちろんだが、それ以外に本書を読んで大事だと思ったことを列挙しておく。今、災害関連のプロジェクトにも関わっているので、結構参考になった。

     -何があるのか
     本書での例はSPEEDIなわけだが、つまり状況判断や予測などのために活用できる既存のシステムについて、どんなものがあるのかを知っておくこと。ちなみに放射能の拡散予測システムであるSPEEDIは文科省の管轄。だが、誰も官邸にその存在を進言することはなく、活用したのは外務省経由で打診を行った米軍のみ。

     -誰がいるのか
     その分野での専門家は誰か。本書では東電や保安院が頼りにならない状況で菅元総理が個人的な人脈でブレーンを組織した様子が書かれている。北海道だと北大、道工大、室工大と言ったところか。どこにどんな専門家がいるかを把握しておくことも重要。

     -各部署で把握できる情報は何なのかを知っておく
     例えば道内で災害が起きたら道庁辺りに対策本部が設置されることになると思うが、その時、関連部署でどんな情報を集約できるのかを、意思決定者が把握しておく。もちろん、その部署の責任者もそのことは知っておく必要がある。そして常に「◯◯についての情報は△△に集約されている」という状態がブレないようにしておく必要も。

     -記録係の設置
     一貫した記録係の不在により、いつ、何が起こり、誰が何を言ったかというのが把握しづらくなっている。対策本部などでは記録、それも書くだけではなく録音、できれば映像での記録があるべきなのではないかと思った。ただし、そこまで記録してしまうと、その場にいる関係者が後での責任追及を恐れて闊達な意見交換ができなく可能性もある。

     -通信インフラの確保
     携帯電話もさることながらインターネットなどのネットワークの確保、そして、そこにアクセスするためのデバイスの確保。菅さんが個人的に読んだブレーンの人は、あまりにも急な話だったので官邸にPCを持ってきておらず、調べものをするのに自分のケータイのiモードだったという記述があった。道庁なり各自治体は、災害が起こった時に対策本部が設置されるであろう部屋における通信インフラの確保を今から行っておくべきだ。

  • あれから4年が経ちました。あの時、官邸で何が起こっていたか、徹底した取材と実名報道で、事実、事実、事実にこだわり抜いた迫真のルポ。
    徹底的にファクトで構築された文章の背後に著者のジャーナリストとしての使命感、熱い想いが奔流のようにたぎっているのがうかがえます。

  • 東電のダメダメっぷりと官邸の混乱ぶりをあぶりだすノンフィクション。評価は星5つでもいいくらい。
    民主党政権じゃなかったら原発事故はあんなに酷くならなかった、みたいなことを言う人たちもいるが自民党政権だったら何とかなったというのはとても考えにくい。というか原発推進をした自民党政権で原発事故起こってたら自民党自体が二度と立ち上がれなくなっただろうな、とは思う。そういう意味では自民党はハイパーラッキーだったとしか思えない。
    民主党が全力をつくしたとか頑張ったとか言う気もないのだが、あの混乱の中で役に立たない東電と原子力村相手に超法規的な動きも含めてそれなりの仕事はしたのではなかろうか。
    しかし東電の撤退問題って論議のすり替えと矮小化が酷すぎて反吐がでる。

  • この前、新聞記者による本をずいぶんと貶したのだけど、この本は同じ新聞社の記者によるとは思えないくらいに面白かった。とはいえ、同じ新聞社の記者によるものだから、歪んでいるところもあるんだろうなぁ、というか歪んでない人なんていないからそれは仕方ないよね。でも、菅首相(当時)がどうだったかということはともかく、東電のダメダメっぷりがこれでもかと描かれていて、ここ最近の汚染水の海への流出とかを見ていても、そこは本当だったんじゃないかという気がしてくる。原発云々も大事な議論だけど、それを誰に任せるのかって話の方が当座の問題としては重要なんじゃないかってね。

  • 急にどうしても「あの時」の官邸、東電のドキュメントが読みたくなり購入。一日で読破。
    人の記憶や心情が絡む以上全てが「真実」ではないにせよ事実としては理解ができた。
    教訓なんてことは軽々しく言えない。

  • 小説仕立ての事故検証本。

    小説仕立てということで、グイグイ読める。

  • 実名主義とソースの可能な限りの明示によって、資料的価値が高い。事故調の報告書とあわせて原発事故について論議する際には必読か。ただ、小説仕立てになっていて、すらすら読めてしまうところが逆に危ないかも。官邸政治家を擁護する目的で一方的に書かれたのではと、レッテル張りをされてしまってはもったいない。
    技術的説明に物足りなさもある(弁が開かないー>どの弁? のような)のはしょうがないか。
    撤退問題については、「全員かどうかに問題がすりかえられた」の指摘は鋭く、国会、政府の事故調ともに、論点すり替えにはまっている。「本質的なのはプラントを放棄するかどうか」として、事実認定で事故調と矛盾せず、しかし実質的には否定する結論を述べている。

  • あの時、自分が何をし、何をしていなかったのか、なぜしなかったのかに思いを致すとともに、優れたルポルタージュの仕事に頭が下がる思いです。

  • 久々に一気に読んだです。

  • P.4
    原子力の安全性についての責務を負う原子力安全委員会の専門家たちは何の責任を取ることもなく、その職に止まり続けた。

    P.254
     再度言う。この問題は、全員撤退問題ではない。原発放棄事件だ。
     東電は原発のコントロールを諦め、放棄しようとしていた――。これが取材を通じて浮かび上がる真実だ。重ねて言う。この原発放棄事件はこれからの原発の稼働を東電が任う資格があるのかどうかを問う、極めて重要な論点だ。

  • 昨年の大震災から福島原発事故へと被害が拡大する最初の100時間の官邸の動きを、出来るだけ多数のインタビューに基き再構築し検証するというもの。朝日新聞の連載コラム及びその書籍化「プロメテウスの罠」同様に、出来る限り誰が何を言ったのか、何をやったのかを実名で記そうとする試みが踏襲されている(この手のノンフィクションには異例と思える数の注記が物語っている)。

    「官邸の100時間」と銘打つだけあり、本書のインタビューに応じた関係者の多くは政治家であるが、一方で官僚や東電幹部の多くは半ば公人であるにも関わらず匿名性を盾にしてインタビューに応じていないようだ。否、政府調査報告書や国会調査報告書でも明らかなように、積極的に歴史を検証するために協力しようという意図が全く見られないのが残念である。

    類似書籍は此れまでも数多く出ているが、上記のような事情からして本書の立ち位置は自ずと政治家寄りになるのは必然と言えるかも知れない。その点を割り引いて読んだとしても、事故発生時からの官僚及び東電の無責任さとそのお粗末な対応の数々の実例には読んでいてホトホト困り果てるし、憤って現場に駆けつけたくなる首相の気持ちも理解できる。

    またこれまでも度々問題になっていた東電が事故現場からの撤退を意図していたのかどうか、との問題に関しては過去の政府調査報告書等では結論をぼやかし曖昧に「政治家の誤解」「東電の意図が伝わっていなかった」とかなり東電寄りの見解に傾いていたが、本書では明確にそれを否定している。

    東電本社と福島第一のTV会議の記録には「オフサイト・センターからの全員の退避」についてのやり取りが残っていること。管首相以下が東電に乗り込んだ直後に「機能移転について」との稟議書の文言について東電社長以下が話をしている事実を挙げている。今に至るまで退避か撤退かという言葉の違いや全員退避かどうか数の問題にすり替えているが、本質は「原発放棄事件である」と明確に結論付け糾弾している。この結論が有ることだけでも本書の意義は大きいだろう。

  • 福島で原発事故が起こった後、ぼくや妻はすぐに新聞やNHKなどのテレビが信じられなくなって、インターネットに走ったことがある。それは、テレビや新聞が伝えるものがまるで「大本営発表」のようだったからだ。本書はそうした批判を受けた新聞の一つ朝日新聞の記者が、名誉挽回をかけて、事実をこつこつ掘り起こし記録したものである。とりわけ、官邸、その中でも管さんから多くの発言を引き出している。それ以外でもなるべく実名をあげ、情報のでどころを事細かに注記している。同時に、実名を出すことが本人に不利益になるものはふせている。その中で浮かび上がってくるものの一つは、保安院や原子力委員会の無力さである。それは当然のことで、かれらはいわゆる過酷事故は起こるはずがないと考えていたから、それに対し、まったくなすすべがなかったのである。もう一つは、東電の態度である。たとえば、計画停電に対し、官邸が大口需要家に対し節電を要求できないかと詰め寄ったとき、「大口はお客さんでそんなお願いはできません」と返答したところに東電の基本的な姿勢が現れている。計画停電をすると弱者が困るから原発を動かせという人は、この東電の態度を知ってほしい。本書で最も出色なのは東電の「撤退」問題で、東電は「撤退」から「退避」さらに「移動」とことばを変えていった。(これはまるで大本営が全滅と言わず玉砕と言い、撤退と言わず転進と言ったのと同じではないか)現在よく知られているのは、全員撤退とは言っていないという東電の主張である。しかし、東電は原発から逃げることになった段階で稟議書を作り、管首相にその承諾まで求めていた。要するに原発を放棄しようとしていたのである。著者の木村は言う。「重ねて言う。この問題は、全員撤退問題ではない。原発放棄事件だ」「こんな東電に、これからの原発の稼働を任う資格があるのか。」と。

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著者プロフィール

きむら・ひであき
ジャーナリスト。
1968年、鳥取県生まれ。
特定非営利活動法人ワセダクロニクル編集幹事。
ワセダクロニクルは、
世界探査ジャーナリズムネットワーク(GIJN)の
オフィシャルメンバー。
2016年に朝日新聞社を退職し、
早稲田大学ジャーナリズム研究所で始まった
探査ジャーナリズムプロジェクトに参加する。

「2018年 『赤羽駅前ピンクチラシ 性風俗の地域史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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