- Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000266048
感想・レビュー・書評
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ここでは自己決定の話をするのに、妊娠中絶と不妊治療という、一見真逆のことが語られている。女性はそのどちらについても、なかなか自分で考えて決めることができない、自分の身体のことなのに。そして、議論は建前と本音がずれている。たとえば中絶をよしとしない人でも、強姦によってできた子どもはおろしていいというなど(この件は、米国のプロライフ派は、それでも産めというほうに行っているらしいが)。何でそうなるのか、というところで、フランスの社会学者ブルデューの「ハビトゥス」という概念を引いてきて、社会は階級・階層によってある種の「考え方」「価値観」などを個別に再生産する仕組みを持っているというところから、女性に対する考え方、女性が自分でもつ考え方がすでに、一定の方向に誘導されて、それが当然、と思いやすいし、特に考えなくて一定の結論や行動が行なわれるのだ、というふうに話を進める。この本は、一般向けのセミナーの講義録に加筆修正してできたもので、込み入って難解なことのある江原さんの本としては(^^;)かなりわかりやすいものになっている。■2006年2月およびその他の年のW大学修士課程入学試験の公開の課題図書の一つ。■S大院社会学教室有志の研究会のテキスト。
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性差医療(gender sensitive medicine)の欺瞞を追及しているうちにたどり着いた一冊。構築主義に立脚しつつも、身体が「構築」される意味を慎重に解体しようとする姿勢がうかがわれる。身体を言説によって構築されたものと見なすことは、身体の「物質性」を否定することにはならない。身体の物質的な側面と非物質的な側面を区別し、言語の<法>に巻き込まれて混乱している後者の厄介さをていねいにほどいていく。
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講演(連続セミナー)を基調としたらしく「です・ます」調の読み易い文体。が、内容的にはかなり満足。「自己決定」という言葉が含意する範囲は、非常に広範で、なおかつ社会的に交錯する文脈で使われていることを再確認。「女性の自己決定権」は「身体の自己決定」と区別されるべき、という点は頷かされる。女性身体の社会性(社会的構成物としての女性身体)が丁寧に論じられていてラクに学べる(←ありがたい(^^;))。一方、「自己決定」そのものはジェンダーに回収できない論点として、なおかつ課題は残っている。「死の自己決定」をどう考えるか、「自己決定」を「自己責任」からどう分節化するか等、気になる。まあ、そこまで求めるのは過大かも(笑)。