追いつめられる海 (岩波科学ライブラリー)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296946

作品紹介・あらすじ

表面の3分の2を覆う海の存在ゆえに、地球は青く、美しい。その海が今、危機的な状況に直面している。海水温の上昇、海洋酸性化、プラスチックごみ、酸素の足りないデッドゾーンの広がり、漁業資源の減少がこのまま進むとどうなるか。環境問題の取材にライフワークとして取り組んできた著者が、最新の研究報告やルポを交えて伝える。

感想・レビュー・書評

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  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001167673

  •  生物がつくる炭酸イオンの結晶にはアラゴナイトとカルサイトという二種類があり、アラゴナイトというタイプの方がPHの低下に弱く、アラゴナイトの殻を持つ動物が酸性化の影響を先に受けるとされている。その代表格がサンゴだ。二酸化炭素は水温が低いほど海水に溶け込みやすいので、同じ大気中の濃度でもpHの低下は冷たい海で激しい。サンゴは比較的暖かい海の生物なので、酸性化の影響は受けにくいとされるが、酸性化した海ではサンゴの成長率が落ちることなども報告されている。さらに深海の冷たい海を好むサンゴも知られており、今世紀末にはこれらのサンゴが暮らせる海はほとんどなくなってしまうだろうとの予測もある。
     アラゴナイトの殻を持つ生物で、研究者が注目している生物は、北極海などの寒い海にすむミジンウキマイマイという小さな巻き貝だ。有殻翼足目に分類され、アラゴナイトの薄い殻を持つ。ひょっとしたらこの仲間が世界で最初に海洋酸性化の影響を受けるのではないかとされている。ミジンウキマイマイは、「海の天使」などと呼ばれて人気のクリオネが唯一の餌とする生物でもある。もし、ミジンウキマイマイがいなくなったら、クリオネも絶滅してしまうかもしれない。小さな軟体動物が注目されるのにはこんな理由もある。


    ■サンゴのいない海
     これまで見てきたように、地球温暖化による高水温や酸素濃度の減少、酸性化、沿岸開発や漁業による破壊、プラスチックや化学物質による海洋汚染などによって海の生態系はさまざまな影響を被ってきた。温暖化や海洋汚染は今後も深刻化するとみられ、その将来は極めて不安だ。中には特に影響を受けやすい生物種や生態系がある。
     IPCCによれば、ケルプと総称される冷たい海を好むコンプの仲間の大型藻類や薬場、サンゴ礁などが特に気候変動の影響を受けやすい。
     ケルプというのはコンプの仲間に属する大型海藻の総称だ。冷たい海を好むコンプは温暖化の影響を受けやすく、米国の西海岸では巨大なケルプの「森」が急減していることが報告されている。


    終章 海の価値を見直す
    ■海と人間の将来を左右するもの・COP25 (マドリード)
    「二一世紀を通じて、温暖化成層化、酸性化、一次生産の減少や酸素量の減少などによって、海洋は、これまでにない状態に変わってゆくと予想される」気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)」の中で、このように指摘。「持続可能な開発が実現できるかどうかは、緊急、かつ大幅な温室効果ガスの排出削減と気候変動への野心的な適応策がとれるかどうかにかかっている」と続ける。
     これまで見てきたように拡大の一途をたどる人間活動によって、海の環境はさまざまな危機に直面している。温室効果ガスによって地球上にたまった大気中に放出された二酸化炭素日常生活や農業活動から出る過剰な大量のプラスチックごみや窒素。その多くが行き着く先は、海だった。
     われわれが手をこまねいていれば、海の環境はさらに危機的な状態に追いつめられていくだろう。第1章で紹介したIPCCのハンスポートナー博士は、マドリードでの気候変動枠組み条約第二五回締約国会議(COP25)会場でのイベントで、海洋保護区の拡大などを通じて、海の生物多様性を守る努力を続ける一方で、温室効果ガスの排出削減の努力を強めることの重要性を強調し「現在のわれわれの行動が、海と人間の将来を左右する」と訴えた。

  • 温暖化やプラスチックごみ問題はたびたび耳にしたことがありましたが、酸性化や海の酸素が減るデッドゾーンなど、はじめてこの本で知りました。

    プラスチックごみを減らすことも大事ですが、もっと様々な分野から問題について考えていかなければ、海を守ることは出来ないのだと感じさせられました。

  • 温暖化に起因する海の熱波の発生による生態系の棄損、陸上の氷が溶けることによる水位上昇と水害の増加。
    二酸化炭素の増加による海の酸性化によって甲殻類やサンゴの生存率が下がることで生態系が破壊され、サンゴによる高潮の防波堤機能が失われることで水害が発生する。
    海に流れ着くプラスチックの増加による生物の生存環境の悪化や、マイクロプラスチックが高濃度の化学物質を吸着して生物の体内に取り入れられることによる生物への悪影響。
    窒素やリンが海に流れ込むことでプランクトンが大量に発生して生じる貧酸素海域。温暖化で成層化が起こることによって生じる貧酸素海域。
    乱獲や温暖化(成層化で表層部の植物プランクトンが減少して食物連鎖の基盤となる一次生産が減少)による天然魚介類の減少。
    マングローブの伐採による沿岸部の二酸化炭素吸収力の減少など、人間活動による海への深刻な影響がわかりやすくまとめられていた。
    温室効果ガスの排出を抑制し、プラスチックの使用を抑制し、規制を作って漁業をコントロールし、既に溢れつつあるプラスチックごみを回収し、マングローブ林や藻場を充実させてブルーカーボンを取り戻す必要がある。

  • 地球温暖化の影響は色々なところで様々語られていて、気候関連の危機の認知度は高いと思いますが、この本は、「海」に関する危機がまとめられています。もちろん海の危機は温暖化の影響によるものも多いですが、それ以外にもいろいろあり、ちょっとこれはいろいろヤバいのではないかと思わされる内容ばかりです。こんな暗い話ばかり聞いていると、なんだか人類は滅亡へまっしぐらなんじゃないかと暗澹たる雰囲気になりますね。
    ただ、現状認識は大事で、改善の動きもあるのも事実。今後一体どうなるんでしょうか。。。

  • 519-I
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著者プロフィール

井田徹治:共同通信社科学部編集委員。本社科学部記者、ワシントン支局特派員などを経て、2010年より現職。環境と開発、エネルギー問題をライフワークに、途上国の環境破壊の現場や、多くの国際会議も取材。著書に『生物多様性とはなにか』(2010年)など。

「2021年 『BIOCITY ビオシティ 88号 ガイアの危機と生命圏(BIO)デザイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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