原爆体験と戦後日本――記憶の形成と継承

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000610582

作品紹介・あらすじ

一九四五年八月に広島と長崎で原爆の被害を受け生き延びた人々は、医科学、法制度、社会・平和運動などの様々な言説群に媒介されながら「被爆者」として主体化していった。その過程の中で何が原爆体験として記憶され、あるいは忘却されていったのか。被爆者たちの戦後史をたどりながら、かれらの体験や記憶の継承の可能性を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 原爆体験についてずっと論文を書いてきた著者の科研費補助金を使った研究成果を本にまとめたものである。岩波なので活字が小さくまた構成上であまり興味を感じにくい本の公正であることが残念である。別の出版社から著者が自由に書いた本をまた学生が読んだら感想は異なるであろう。

  • 読むのに随分時間がかかってしまったが、読んでよかったと思える本だった。わたしは被爆二世でありつつ、これまでの歴史は全く知らなくて、生まれたときには既に今のような「世界」ができあがっていたので(確かに原水禁と原水協に分裂したとか、そういうのは知っていたものの)、原爆の被災者は最初から「被爆者」とは呼ばなかったとか、その「被爆者」の範囲も時代と共に変わってきたということとか、そういうことは非常に勉強になった。

    そういえば、この本を読んでいて以前から不思議に思っていたことがあったのを思い出した。「はだしのゲン」の何巻かは忘れたけど、原爆投下1周年の記念式典はなんだかお祭りみたいなもので、今行われているような「鎮魂」の式典では全くなかったみたいで、あれを読んだときに「今と全然違ってたんだろうか?」と少し疑問だったのだ。現実、被爆1周年のときは祭のようで、これは市民から大いに不評だったらしい。原爆投下=平和への誓い、という概念がそのときは全くなかった。それがどうやって「被爆者」=「平和を願う人」に形成されていったのか、その歴史はとても興味深かった。また毎年記念式典に中核派などが来るが「なんで、あの人ら来るんだろう?」と思ってたが、その理由も分かった。被爆二世として、今後、どう考えて行けばいいのかを考える上ではやはり今までの歴史を知らねばならないと思う。

    ただ、中で少し気になったのは、遺族の人たちの言説「自分たちの子どもが原爆に遭って亡くなったために、今の平和があるのだ」という「原爆平和招来説」と、米国や米国の退役軍人がよく原爆投下の正当化に使う「原爆を落としたから戦争が早く終わった」ということへの「違い」というのがわたしにはよく分からない。わたしとしてはこの2つは論理的には同じような気がするのだが、米国の正当化の理由は絶対に受け入れられないとするのは、単に落とした方からそういうことは言われたくない、という心情なのだろうか。もちろんこの本には米国の正当化の理由との関係などは一言も書かれていないが、現実につい最近、わたし自身が日本軍捕虜だった元アメリカ兵から面と向かってこの言葉を言われた後でもあり、この本を読んで「被爆者遺族自身も同じようなことを言ってるのではないか」と少し思った次第である。あと原爆で亡くなった学徒たちが靖国に祀られているとも全く知らなかった。そういう面は、一般の空襲に遭ってなくなった死没者と全然違う扱いであり、それが保守にも革新にも「使われた面」というのが印象に残った。

    しかしこの本、たくさんの被爆体験手記を元に歴史的なこと(被爆者運動等)を分析していたり、原爆に遭うという体験をした人たちのトラウマの分析をしていたり、割と多面的な方向から書いている本だ。今までずっと歴史的は話だったのに、最後が突然トラウマの話になっているので、わたしとしてはちょっと違和感があったかも。

    当事者は分かりやすい「被害者」の中に閉じ込められて使われる、しかしその実、自分のことを本当に分かってはくれていない、だからこそ「(原爆は)おうたものにしか分からん」と言って口を閉ざす、そしてまた、当事者自身も自分は加害者の一部であったという認識はほとんどない(もちろんごくわずかだがそういう認識をしている人たちもいる)、朝鮮人(韓国人)被爆者孫振斗さんが治療を受けたいと日本にやってきた際、それが密航だったために被爆者団体はどこも無視したとか(団体ではなく一個人で支援した人も何人かいたらしい)いろんな面があったと教えてくれた本だった。

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