コロナ禍の東京を駆ける: 緊急事態宣言下の困窮者支援日記

  • 岩波書店
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000614412

作品紹介・あらすじ

「ステイホーム」する家がない——。コロナ禍による派遣切りに遭い、ネットカフェなど拠り所を失い、追い詰められ、助けを求める人たち。対する行政の「水際作戦」の横行。緊急事態宣言発出日以降の支援者の日記から浮かび上がる、福祉の貧困と、それに抗い、つながる人たち。この社会の実態を突きつける貴重なドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • ◯表紙が絵本のようでとても可愛い。絵本のように現実を風刺化している、というには直裁的ではある。
    ◯行政機関、主に福祉事務所の水際対策に憤る支援者たち。コロナで感染の恐怖もある中、要であり急である支援なために駆け回る姿には感動すら覚える。
    ◯しかし福祉事務所の水際対策はなぜ起きるのか、福祉に携わった経験のある人間としては、やはり気になる。
    ◯保護を受けたいという人でも、それまで税金(それこそ消費税だって)を支払ってきたのであるから、生保を受けるのは当然である、これは分かる。しかし、もしも福祉事務所が税金であるがため、平等に接することに徹しているのだとしたら、福祉事務所の考え方も分からないでもない。税金で給料をもらっているということは、税金の番人であり、公平を突き詰めているのではないか。(この本に出てきた役所の対応はどうかと思うが)
    ◯しかし、以前何かの本で読んでいたが、税金という観点から考えれば、捕捉率との兼ね合いで考えても、そこまで保護費が逼迫するのかは分からない。この際全員助ければ良いという発想に、世の中がなれば良い。それでも、福祉事務所の人員不足は確かにあるが、それは委託等でこなしていくのか。
    ◯そして、役所の人間が次に心配しているのは騙されることではないか。しかし、それと助けるべき人を助けないこととはちょっと筋が違う。違法は罰すれば良い。
    そして不正受給が起きることと、助けられた人が無事な生活を営めるようになることでは、後者の割合の社会的な貢献度は大きいのではないか。そういう発想も重要だと思う。
    ◯福祉の未来はまだまだ前途多難であると感じた。支援者の方々は、第一波よりも過酷な第二波、第三波の渦中で、かつ、緊急事態宣言の中で、今でも支援をしているとしたら、自分だってその場に駆けつけたい、そんな気がしてくるのだ。

  • 【寄稿】コロナ禍で増加する相談者、ウソで追い返す福祉事務所(小林美穂子) | マガジン9
    https://maga9.jp/200930-2/

    コロナ禍の東京を駆ける - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b539123.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      第9回:差別、優生思想に居場所はない!(小林美穂子) | マガジン9
      https://maga9.jp/20210825-2/
      第9回:差別、優生思想に居場所はない!(小林美穂子) | マガジン9
      https://maga9.jp/20210825-2/
      2021/08/25
  • 表紙が好きで衝動買いしましたが、内容も素晴らしかったです。何より読みやすいですし、東京がこうなら大阪もやばいかも……と思いました。

  • コロナ禍は、多くの人に不自由を強い、不利益をもたらしたが、厳しい社会情勢の中で最も影響を受けるのは、得てして、不安定な立場の人たちである。
    「つくろい東京ファンド」は、こうした弱い立場の人たちに寄り添う組織である。社会支援にもさまざまな形があるだろうが、この組織の特色は、ハウジングファースト、つまり、「住まい」を基本においていることである。安定した生活はまず安定した住まいから。その理念を胸に、路上生活の人々が、アパートなどの独立した住居に入居できるよう支援する。
    コロナ禍で、生活困窮者がよく利用していたネットカフェが軒並み閉鎖された。潜在していた困窮者があぶりだされる形になったわけだが、そうして表に出てきた彼らが福祉事務所に行くと、ここで紹介されるのは往々にして無料低額宿泊所と呼ばれる施設である。戦後、篤志家による支援をモデルケースとした仕組みだったが、近年は悪質な業者が多く参入し「貧困ビジネス」と称されるものが増えている。悪質なところに入居してしまうと、困窮者は生活保護費をむしりとられるだけで、碌な支援も受けられず、そこから抜け出せなくなる。衛生状態もよくない中での集団生活であり、コロナ禍では重要となるソーシャルディスタンスも保てない。
    感染対策として、行政がビジネスホテルの借り上げもするようになったのだが、実際の利用へのハードルは高い。福祉事務所はあまり紹介をしたがらないのである。
    困窮者とともに福祉事務所へ出向き、まずはビジネスホテル、そして独立した住居に住めるよう、制度への橋渡しをするのが彼らの仕事である。

    本文の大半はファンドのスタッフであり、代表・稲葉剛のパートナーでもある小林美穂子がFacebookに上げていた日記。これをライター・和田靜香が抜粋してまとめている形である。
    行政によるたらいまわし、論理のすり替え、冷淡さと闘う日々の記録といったところだろうか。怒りももどかしさも辛さもありつつ、エネルギッシュにユーモアも交えてつづられている。
    制度はあるのに、なかなか実際の利用にまでたどり着けないのが実情。あまりに対応のひどい行政区は実名も出しているが、全体には、個々の担当者の資質や個々の行政区が抱える問題がどうこうというよりも(それがないというわけではないのだろうが)、制度の問題があるのではないかという印象を受ける(理想的には、どんな人が担当者であろうとも、適切な運用がなされる「べき」だろう)。本書の視点からでは、もちろん、行政側の言い分は見えにくいわけで、それはそれで聞いてみたいような気はするが。
    いずれにしろ、困窮し、疲弊した人に寄り添い、時には彼らの代わりに、彼ら以上に熱く戦う存在というのは、困窮者にとっては心励まされる存在だろう。
    同時に、支援する側の精神的な負担の重さも窺われ、息の長い支援を続けていく困難さを思う。

    コロナ禍があぶりだした生活困窮者支援の問題は、コロナ禍が収束してもなお続く。
    今、そしてこの先、社会が備えるべきセーフティネットとはどのようなものだろうか。
    さまざま考えさせられる1冊である。

  • 医療と福祉は表裏一体,隣り合わせだと思っていた.だから,「何となく」分かってるつもりでいたけど,勘違いも甚しかった.
    福祉の入り口で,何が行われているのか…恐ろしい国に生きてること,思い知った.
    生活保護制度の悪用なんてほんの一部だし,受給者は「自己責任」ではない事,頭で分かってても何処かでフィルターかけてた自分に気がついて,恥ずかしくなるやら情けないやら…
    とにかくとにかく,大事な大事な一冊です.
    みんな,借りてでも良いから読んで!
    いや,買って読んで応援してほしいです!

  • 日本社会全体で、想像力が欠如しているとしか言いようがない気がした。

    ボランティアで支援してくれる人のほうが公的な機関より親身で寄り添おうとしている現実。どうしてこんなにも福祉が機能しないのだろう。

    生活保護バッシングへの負の影響が色濃く残っているのだなぁと思った。税金は、何かあった時のためのセーフティネットとして納めているものなのではないだろうか。公的機関には公的機関の言い分があるのかもしれないが、マニュアルでは対応できないし、そもそもの存在意義が意識されていないのではないか…。

    私にできることは何だろうか、ということもぐるぐる考え続けながら読んだ。

    小林さんの「ほんとうに困っている人」の「ほんとうに」が嫌いだという一言が、胸に刺さる。

  • 《熱い、熱い、熱い!!》

    コロナ禍で失業者や路上生活者が増える中、いかに行政が「人でなし」であるかが炙り出されている。
    知らなければ行政は弱者に対して親身になって優しく対応すると思うのだろう。
    残念ながら一部の心ある職員を除いて『平気で嘘をつく、相手の立場でモノを考えられない』正しく『お役所仕事』しかできないのである、緊急事態の中ではその酷さは更に増している。

    弱者を代弁する支援者としての活動を記したこの書は、ともに泣き、笑い、そして怒ることができる「熱い」本だ。

    弱者の味方を応援する傑作です。

    #稲葉剛
    #小林美穂子
    #困窮者支援
    #ホームレス支援

  • この本を購入したきっかけは、私が応援している衆議院議員の小川淳也さんと今回の本の製作に携わっている和田靜香さんが共著「時給はいつも最低賃金 これって私のせいですか 国会議員に聞いてみた」を出版し、その関係で和田さんとツイッターをするようになったこともあり購入しました。この本は東京都の中野区に拠点を置く、生活困窮者支援団体「一般社団法人つくろい東京ファンド」による令和2年4月~7月までの活動記録となります。コロナ禍において経済的に困った方を救おうとする活動の数々(主に生活保護の申請及びアパートを賃貸するまでの支援)が記載されています。その真摯な活動には胸を打たれました。ありがとうございました。以下は小林さんの活動記録となります。

    緊急事態宣言により、ネットカフェも閉鎖することを余儀なくされ、ネットカフェに滞在する方の存在が浮き彫りとなりました。筆者は言います。「東京のネットカフェで生活している人は約4,000人います。(略)多くの支援団体がネットカフェで暮らす人たちに支援を届けるために試みを行ってきたが、ネットカフェ業界もパンフレットを置いてくれなかった。それが、新型コロナウィルスにより行政が開けようとせず、支援者も開けられなかったパンドラの箱を開けた。この禍で開いた箱である。これまでうつらうつらとしか睡眠は取れず、医療にもかかれず、節約のためにシャワーも毎日は使わず、カップラーメンばかり食べながら足も伸ばせずにいた人たちが、ふつうに人間らしい暮らしができるようになれば、過も福と転じる。社会も少しは救われる。」(29P~30P)私もそう思います。「この時期、各地方自治体の生活保護の窓口でも問題のある対応が散見された。相談に来た人を追い返したり、たらい回しにしたりする「水際作戦が横行していた」」とのこと。(9P)
    コロナ禍を契機として社会のあり方を前向きに見直していくことが大切だと思います。

    昨日から何も食べていないという萌さんという女性に対して、ファミレスでジュースをご馳走し、その際「首を吊るしかないと思ったのですが、連絡しました」と言われ、その後、2週間スマホが使えないため萌さんと連絡が取れなかったのですが、連絡があり生きていてくれて良かったと筆者が安堵している様子を思い浮かべ、私も嬉しくなりました。(54P)

    台東区の係長が嘘を言いました。
    「ビジネスホテルに泊まりながら、生活保護は利用できない。新しい文書が出た」(73P)とのこと。他の区では実施しているので、その文書を見せて欲しいと言うと、文書は示さず「聞いてみたらビジネスホテルも利用できる」という回答のみでした。この本には福祉事務所の方がこのような嘘を言ったりするちぐはぐな対応が数多くあります。とても残念に思います。

    新宿区では、東京都からネットカフェが閉鎖になっているため、ビジネスホテルに宿泊している87名に対して、5/31までだった滞在期間が延長されているにもかかわらず、その事実を伝えずビジネスホテルから退室させたことに対して、新宿区に申し入れを行い、新宿区長名で謝罪文を発出してもらうようにしました。とても効果のある申し立てをしたと思っています。(119P)

    練馬区の福祉事務所も酷い対応をします。(142P)
    生活保護の申請を行い、支給が16日先のため、それまでの貸付を求めたところ、「少ないのですが、練馬区では一日500円と決まっている」とのこと。500円で3食と交通費なども賄えということです。これでは、人としての基本的な生活が出来ないと言うと、窓口係の女性が「カップラーメンとか。私もカップラーメンをスーパーの安売りで買ったりしていますよ」と言われ、筆者は込み上げてくる感情を抑えきれず「なに言ってんですか!自分も同じだみたいに言わないでよ。この人が歩いてきたこれまでと、あなたの生活はまったく違う!同じだというなら、無低(無料定額宿泊所)やネットカフェで、カップラーメンで命をつなぎながら職場に通ってみなさいよ。冗談じゃない‼無神経なことを言わないでくださいよ‼」と言いました。私でもそのように言うかもしれません。このセリフを聞いて、私は目に涙が浮かんで来ました。(結果的に10,000円支給されたとのこと)

    反貧困ネットワークの瀬戸さんという方が、餃子の王将でアパートの部屋が決まった方にご馳走してあげているタイミングで電話をすると餃子をたくさん食べていることを知らされ「たらふく食べさせてやってください」と伝え、筆者は「これからは、派遣切りに遭っても、コロナが流行っても、君には自分の部屋がある。少しでも安いネットカフェを彷徨い歩く必要も、そのお金すらなくなって路上で過ごす必要もないからね。日本の福祉事務所がすべての人にこのような安心、安全な生活基盤をサポートしてくれるといい。アパートが決まって彼らが目を輝かせる姿や、大量の餃子を食べる姿を福祉事務所の職員にも見せてやりたいなぁと思う。」(158P)という部分は筆者の優しさが溢れている文章です。困っている方を助ける団体と行政が力を合わせれば、もっと素晴らしい活動になるのに、残念だという思いがこの本の端々から感じ取れます。

    事務局の佐々木さんが「泊まる場所がありません。助けてください」という電話を受け、夜の池袋へ自転車を漕いでいくシーンがあります。(172P)本当に頭が下がります。貧困で困っている方への支援というのは、心も体も休まる間のない大変な仕事だと思いました。

    私はコロナ禍というのは、生活基盤の弱い方を直撃したと思っています。その生活基盤の特に弱い、家の無い方を筆者は必死で支援していました。読んでいて、所々、感情が込み上げてくる感覚がありました。私はこの本を読んで少しの金額ではありますが寄付をしました。寄付をしたい方へ連絡先を記しておきます。

    ・つくろい東京ファンドhttps://tsukuroi.tokyo/donation/ (JCBカードは使用不可)
    ・東京アンブレラ基金https://www.congrant.com/project/umbrellafund/1540

    なお、和田靜香さんはとても優しい方です。この本でも稲葉さんが「書籍化できたのは、ひとえに私たちの活動を応援してくれているライターの和田靜香さんのおかげです。和田さんの強い勧めがなければ、本書が刊行されることはなかったでしょう。いくら感謝しても感謝しきれません」(186P)和田さんは、あちらこちらで喜びの種を蒔いている、本当にすごい方だと思いました。私がこの本を読めたのも和田さんのお陰です。ありがとうございました。

    私はコロナ禍を契機として、福祉そして社会のあり方を考え直すようになれば良いと思っています。一人でも多くの方がこの本を手にして、コロナ禍で困っている方に寄り添うような社会となることを願っています。素晴らしい本を出版してくれた筆者と出版社に深く感謝いたします。ありがとうございました。

  • 学術書ではないけれど…福祉関係者には読んでほしい内容.たぶん,ソーシャルワーク実践そのもの

  • ブレイディみかこさんの書評を読み購入。
    在宅ワークに切り替わった以外にコロナ禍の影響を受けずに生活できている自分からすると知らなかったことだらけ。
    この国の各自治体の水際対策に驚愕し憤りを憶えつつ、著者をはじめとした支援者の方々に頭が下がる思い

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著者プロフィール

1969年、広島県広島市生まれ。1994年から路上生活者を中心とする生活困窮者への支援活動に取り組む。
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事、いのちのとりで裁判全国アクション共同代表、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授。
著書に『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『コロナ禍の東京を駆ける』(共編著、岩波書店)、『ハウジングファースト』(共編著、山吹書店)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『生活保護から考える』(岩波新書)など。

「2021年 『貧困パンデミック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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