戦争の文化: パールハーバー・ヒロシマ・9.11.イラク ((上))

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000614856

作品紹介・あらすじ

自らに都合の良い思考、異論や批判の排除、過度のナショナリズム、敵の動機や能力の過小評価、文化的・人種的偏見——今もなお世界を覆う「戦争の文化」の本質を、真珠湾攻撃から原爆投下、九・一一事件、イラク戦争に至る日米の愚行を通じて描き出す。『敗北を抱きしめて』で知られる碩学の長年にわたる研究の集大成。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争の文化という観点から、9・11やイラク戦争を語る時、どうしてあの時、アメリカ人の間から「パールハーバー」が引き合いに出され、「屈辱の日」が語られたのか。
    なぜ、原爆の「きのこ雲」の恐ろしい光景が心のうちに想起されたのか。
    なぜヒロシマの「グラウンド・ゼロ」が9・11の「グラウンド・ゼロ」と結びついたのか。
    これらの歴史から蘇った言葉は、これまで散々語られ、過去からの汲み取るべき教訓の言葉だったにもかかわらず、まったく盲目にさせる暗示となった。

    戦争において言葉やレトリック、宣伝文句がいかに人々を罠に陥れるか。
    戦争を始めることより、戦争を止めることを、言葉がいかに難しくさせるか。

    「人は自らの言葉やレトリックの囚われの身となり、戦争の機構はそれ自体の力で動く」。

    ヒロシマとナガサキにおける「衝撃と畏怖」を活用すべし。
    「真珠湾」や「歴史に残る屈辱の日」は、誤解や暗愚を象徴する暗号として、良心の呵責を感じることなく、残酷であればあるほど、いま求められている必須の効果的な手段として認識される暗号となった。

    「歴史を誤用すると、それはひび割れた鏡になる」。

    しかもそのひび割れた鏡は、敵の意図や能力を見極める視線を歪めてしまう。

    同時多発テロに対して、多くのアメリカ人は真珠湾攻撃を想起したが、相手の文化や能力に対して関心を払わず、偏見や先入観を持つなどの想像力の欠如は、指導者に容赦なき力がもたらす結果への過信を育み、破壊への固執を生んだ。

    「敵を見くびり、自らの独善性の根深さも、相手方が巨大なリスクを引き受ける覚悟を固めていることも、理解できなかった」

    「相手の言い分を一切受け付けないことが道徳的で明快であることだと明言した人々は、帝国日本とイスラム原理主義を世界環境のあり方から理解することは邪悪な行為を免責することだと主張する」

    日本の真珠湾攻撃と比肩すべきは、9・11より、米の対イラク開戦の方だった。
    なぜなら、1941年12月を2003年3月に、日本の指導者をアメリカの指導者に置き換えて考えると、その類似性に驚かされるからだ。
    ブッシュ大統領の周辺で、真珠湾攻撃前の日本の大本営がきめた文章よりも内容のある、具体的な長期計画のようなものは見当たらない。
    もっとも戦争の終わらせ方を決めていなかったことや長期戦への備えなど無計画だった点では、日米は驚くほど似ている。
    帝国日本が犯した戦略的愚行を、60年後のアメリカ政府は踏襲している。

    本書で効果的に挟まれる厳選された写真は、内容と見事にシンクロし、時に目を背けたくなるほど衝撃的。
    無差別爆撃や原爆投下の章はほんと言葉にならない。

    「戦略爆撃」という言葉は、悪い敵を打ちのめし、味方の命を救うのみならず、経済的にも軍事的にも効率的であり、戦争の恐怖と悲惨さを忘れさせてくれた。
    爆撃の素晴らしい威力にうっとりする一方で、その下で苦しみ死んでいく者たちへの想像は決して及ばない。
    原爆投下で救われた人数は、誇大なまま独り歩きし、最後まで信ずる者たちの信念を補強し続けた。
    アメリカ人だけでなく、戦争において誤解や暗愚を象徴する暗号としてのフレーズは、いまも我々の目を曇らせ、心を怪しく支配し続けている。

  • 上下巻2つの大書だが、その内容はとても刺激的。タイトル通り、まさに戦争の文化に対する考察が記されている。第2次世界大戦と9.11テロから一連のイラク戦争、その後のイラク占領に至るまでの共通点、相違点を冷静に分析している。

    アメリカ国内で9.11そのものが真珠湾奇襲になぞらえられていたが、そこにはほとんど相違点がなかったことが説得力をもって展開される。歴史へのまなざしという点においても、とても参考になる本であった。

    「傲慢と一体になった希望的観測」という指摘は、ある意味、日本軍を扱った「失敗の本質」に記されている内容にも通じるものがあると感じた。

  • 東2法経図・6F開架:392.5A/D89s/1/K

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/778093

  • パールハーバー、ヒロシマ、9.11、イラク戦争を比較、考察し、戦争の文化の本質を描き出す。

  • ふむ

  • 名著「敗戦を抱きしめて」の著者による、911・イラク戦争の米国・アルカイダと、第二次世界大戦の日本・アメリカとを比較検証しながら、戦争を取り巻くいろいろな背景を考える書。それぞれの歴史について学ばされるところが多かった。本論には直接関係ないところもあるが、原子爆弾投下をめぐる背景についての記述、戦後日本がアジアで最もある意味恵まれた立場にいたこと、その幸運について考えさせられた。著者は米国の政治全般に対して非常に厳しい見方をしており、理想主義的過ぎるのではないか、と言う印象も否めないが、ジョン・ダワーの文章は綺麗で(訳も良いのだろう)、印象深い書である。

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