- Amazon.co.jp ・マンガ (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000615457
作品紹介・あらすじ
一九三〇年、日本統治時代の台湾に生まれた蔡焜霖(ルビ:さいこんりん)は、読書が好きな少年で、教育者になることを夢見て育った。戦争の色濃い時代は日本の敗戦で終わったが、戦後は国民党政権による新たな支配が始まり、ある日、町役場で働く焜霖のもとへ憲兵が訪ねてきて……。白色テロの深い傷を描いた台湾の傑作歴史コミック、第一巻。
感想・レビュー・書評
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岩波書店でコミックとは珍しいな、と手に取ってみた。出版社はグラフィック・ノベルと称している。グラフィック・ノベルの定義がいまひとつよくわからないのだが、ストーリー性の強い、大人向けで文学性の高いもの、というところなのだろうか。
著者2人のうち、游珮芸(ゆう・はいうん)が脚色を担当し、周・見信(しゅう・けんしん)が作画を担当。
全4巻。
実在の人物、蔡焜霖(さい・こんりん/チウァ・クゥンリム)が主人公である。
焜霖は1930年、日本統治時代の台湾に生まれている。3人の兄、4人の姉、2人の弟がいる、10人兄弟の8番目。1番上の姉以外の3人の姉は親類や友人家族に養子に出されている。
小学校の校長先生は日本人で、日本語で勉強を教わるが、家では台湾語を話す。
5,6年生の時の担任の先生は日本名を持っているが、台湾生まれの台湾人である。
成績がよかった焜霖は、先生に中学進学を勧められる。一番上と二番目の兄は家業を手伝い、三番目の兄は商業学校に通っていたが、焜霖は難関中学への進学を目指すことになる。
だが、日本統治時代の繁栄期は終わりを迎えようとしていた。焜霖が6年生の1941年12月に、太平洋戦争が勃発したのだ。
無事、中学には進学したものの、勤労奉仕や軍事訓練の日々。すべての授業が停止され、15歳未満だった焜霖らも学徒兵として徴用される。食料事情も悪く、塹壕を掘りながら、空襲のどさくさにまぎれて、上官の目を盗んで畑のサトウキビを齧ることもあった。
やがて終戦。1945年10月、中華民国政府は日本から台湾を取り戻し、焜霖らもようやく復学がかなった。「国語」の授業は、日本語の授業から北京語の授業に変わった。新たな時代が始まったのである。
1947年2月28日、「2・28事件」が台湾を揺るがせる。
インフレや食料不足、汚職などが重なり、新政府に期待していたのに裏切られた形の民衆の怒りが爆発した。各地で政府への抗争が勃発、暴力事件も頻発した。
落ち着かない時代が続き、授業も中断されたりまた再開したりであった。
1948年末には国共内戦が膠着状態となり、1949年には台湾にも戒厳令が敷かれた。その年、10月中国共産党が中華人民共和国を建国、蒋介石率いる中華民国政府は12月に台北に移り、長い対立の時代が訪れることになる。
そうした最中に高校を卒業した焜霖。学問を続けたい気持ちはあったが、家の事情も厳しいことから、仕事をし、状況が落ち着いたら勉強することに決める。
役場で働いていた彼は、しかし、突然、1950年9月、私服憲兵に捕まって尋問を受けることになってしまう。
1巻はここまで。
太平洋戦争後も台湾は激動の時代が続いていたことがわかる。
略歴から、焜霖は後に、編集者として活躍することになっているのだが、そこに至るまでにはまだ苦労が続きそうである。
絵柄は素朴で温かみがある。日本語・台湾語・北京語で文字のフォントや色を変えるなど工夫が施されている。
続きはまた機会があれば手に取ってみたいと思っている。
英語タイトルは"Son of Formosa"。Formosaとはポルトガル語で「美しい」を意味する。16世紀中期、ポルトガル船が台湾近海を航海していた際、船員が偶然水平線に島を見つけ、「美しい島だ(Ilha Formosa)」と叫んだことに由来する。現在でも、欧州では台湾のことをFormosaと呼ぶことがあるそうである。
その後、統治に至ったのは、ポルトガルではなくオランダだったが、その30数年後、鄭氏によって駆逐され、さらに22年後には、鄭氏が清朝に敗れ、200年ほど清朝の統治が続く。その後、50年、日本の統治時代がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
蔡焜霖氏(恥ずかしながら私は今作を読んで知った)を主人公にした伝記的な漫画。
温かみのある絵がとても良いのだけど、描かれている内容は、淡々としつつも胸をえぐる。
日本統治下に生まれ、皇軍が勝つと信じさせられていたこと。
戦後、日本語ではなく北京語を話さねばならなくなり、自分の名前さえ言えなかったこと。
一巻は衝撃的な場面で終わる。
続編を読みたいし、日本でも広く読まれて欲しい。 -
訳あって、3巻から逆読みしています。統治などの社会的変化の激しさが印象的です。3度も青年期までに大きな変化があり、価値観が変わっていて、とてもハード。おおきなより広い家族も含めた人間関係が支えにはなったのかもしれません。それでも社会の不条理に耐えるうる関係にまでなっているのはそれを大事に思いはぐくむと同時にそのちからが人のなかにあったのだろう。柔らかい絵柄で淡々と描かれている感じだけれども、読むと様々に思いが広がって
考えさせられる内容です。 -
日本人はこの時期に台湾を植民地にしていたことについて、どう思っているのでしょうか。
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文章が少ないので、とてもあっさりと読めてしまった。
裏に含んだ内容はとても深いはずなのに、あっさりと読んでしまっていいものなのか…?
もしかしたら、そこにこのマンガの凄さが隠されているのかもしれない。
このマンガを軸として、歴史を肉付けしていく、というのが良いのかもしれない。 -
ブックガイドとか書評で複数回目にする機会があり、それは読んどかないと、ってことで。マンガだから取っつきやすいってのも大きい。台湾有事を頻繁に見聞きするけど、その歴史はと問われると、殆ど知識が無いことに気付き、情けない思いにとらわれる。その点、読み易く漫画で描かれた本書は重宝する。物理的な距離感のみならず、日本との関係も色濃い訳で、やっぱり無関心ではいられない。本書を入り口に、ノンフとかも紐解けたらな、と。
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烏兎の庭 第七部 10.8.23
http://www5e.biglobe.ne.jp/~utouto/uto07/doc/TWN.html -
台湾のこと何も知らないので入門のつもりで読んだ。日本という国は大きな罪を犯してるなあ、台湾でも。
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日本統治時代に生まれ育った子。故郷のことば台湾語、政府としてやってきた北京語、50年という長い統治で現地に根付いてしまった日本語。マルチリンガルに育ち、日本統治下とはいえ、絵のタッチが示す子ども時代は牧歌的でもあり洗練されている
太平洋戦争、なんて今は言わないのかもしれないが日中戦争に日本側として訓練や労働となり、そのあとくる、国民党、中華民国政府の台湾[統治]
台湾の人々が往々にして先進的でしなやかであることが理解できる。まず入り口の第1巻。
美しい絵、美しい言葉。残していくべき記憶。