草双紙集 (新日本古典文学大系 83)

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  • 岩波書店
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002400839

感想・レビュー・書評

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  •  岩波書店のこの新日本古典文学大系シリーズは、1色刷だが本全体がやや大きく、1冊1冊が結構重たい。現代語訳はついていないが、注釈は細かく付されており、古文の授業を昼寝してさぼった私でもおおむね読解することができた。
     草双紙すなわち17世紀後半頃から19世紀後半頃までに読まれた赤本・黒本・青本・黄表紙・読切合巻は、浮世絵ふうの絵が入っている絵本で、当初幼児向けのこんにちの絵本のように子供を対象としたおとぎ話的なストーリーの、絵を主体とした他愛のない本であったようだが、それがパロディ・滑稽の流行に移ってゆくと共に、大人でも楽しんで読むような江戸町人の娯楽となっていったようだ。本書を読むとその推移がよく分かる。
     活字の本文と注記にスペースを取られるため、本来は大きいはずの絵が、ちょっと細かくて小さな画像になってしまっているのは、やむを得ないだろう。絵は初期のものはあまり上手くない落書きめいたものだが、途中から名うての描き手が参入するようになり、特に本巻数編に付された初代歌川豊国の絵は、割と芸術的な趣のあるものだった。
     注目したいのは、絵の中の人物のすぐ脇にその人物の台詞が書かれているというお決まりの構図で、これは輪郭線が無いだけであり、現在のマンガの「ふきだし」と同じ手法である。
     文章の方の作者は、有名どころでは恋川春町(1744-89)、曲亭馬琴(1767-1848)、山東京伝(1761-1816)らの作品が本巻に収められている。
     特に幕末の頃に作られたという「合巻」は、やや長めだがサスペンスフルなストーリー展開があって普通に面白い。馬琴、京伝の作が楽しめた。合巻は当時の歌舞伎を本に置き換えたようなものであるらしい。別々の地点で起きる出来事を交互に叙述するような構成法など、西洋近代小説にも近づいている。派手派手な胸躍るストーリー、分かりやすい類型的な登場人物・行動、なかなかのエンターテイメントである。いつかは読んでみたいと思っている大作『南総里見八犬伝』もこういったものなのだろう。類型的すぎる人物設定を坪内逍遙は批判したものだったが、このようにデフォルメし神話-化することによってこそ、人物イメージが多数の大衆の心に浸透したのだろうということも出来るだろう。
     中学・高校の「古文」の授業はつまらなくて、堅苦しい暗記ものとしての古典文法が苦手だったが、こういう面白く共感しやすい文学作品を「読む」ことをちゃんと学ばせてくれていたら、もっと真面目に勉強して身につけられていたろうなと思う。受験古文は本当につまらなかった。

  • 第83巻

  • とにかく面白い。合巻は赤本や黒本よりも文化がこなれてきて趣向を全部取り入れながらも普遍的になったっていうのが良くわかる。

    敵討ちや出世譚の型をふまえつつ、設定や話の運びがそれぞれ独創性。続きが読みたくてしかたなかった(^_^;)
    特に挿し絵の、細部まで行き届いてること!
    日本人ってつくづくパロディが好きなんだなぁと思う。私はまだまだ近世に詳しくないから、知らない風習・慣用句や当時の役者絵にピンと来なくて悔しいね・・・


    しかし童蒙赤本事始の中に出てきた玉子と海藻は何者なの\(^o^)/

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著者プロフィール

元都立中央図書館司書。元金城学院大学図書館長。

「2017年 『改訂増補 絵本と浮世絵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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