作品紹介・あらすじ
灼熱のコンクリート道に、緑の日傘があったなら。待ったなしの気候変動対策に取り組むなか、世界の諸都市は≪樹冠最大化≫を目標に掲げ、IT技術も駆使して、身近な緑を豊かなものにしている。枝を短く伐られ、電柱のような街路樹が目立つ日本は、どうしたら変われるのか。米・独・仏、また国内都市の最前線を紹介。
感想・レビュー・書評
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街路樹は木の樹影が地面を覆う面積も考えて剪定して欲しいとつくづく思いました!日本はほとんどが切りすぎのようです!仙台と名古屋だけはいいみたい!各自治体で共有して欲しい!
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街路樹は問いかける
~温暖化に負けない〈緑〉のインフラ
著者:藤井栄二郎、海老澤清也、當内匡、水眞洋子
発行-:2021年8月5日
岩波書店
2018年9月に大阪の都市部をもろに襲った台風21号では、うちの近所の街路樹が次々と倒れて車道や歩道を塞いだ。こんなことがあり得るのかという光景だったし、全国の人たちにも「台風をなめていた」と言わしめた。
僕は、前々から最近の街路樹は弱くなったと思っていたし、それを口に出すと、同年代以上の人は同調してくれる人が多く、何でだろうとも言っていた。
今、日本の街路樹は「切詰め剪定(ぶつ切り剪定)」と呼ばれる剪定が一般化していて、これが一番の問題らしい。青々とした枝を伸ばしていた街路樹が、いっぺんに短く小さくなり、冬には丸裸になっている姿をよく目にする。これが木を弱らせる大きな原因の一つ。また、電柱の地中化工事の時に、街路樹のすぐ横を機械で掘るため太い根を切ってしまう被害も深刻らしい。
街路樹は「樹冠被覆率」が非常に重要。すなわち、木陰をどれだけ作るか。温暖化やヒートアイランド現象の激化を受け、欧米の多くの都市ではこれを増やす取組みが進んでいるが、日本の剪定はまさに逆行と言える。なお、日本では樹冠被覆率ではなく、「緑被率」という言葉が使われていて、増やす努力が行われているが、これは芝生や低木、中木も含まれ、路面温度を20度も下げるといわれる樹冠被覆とはまるで違う。
アメリカの街路樹管理者からすると、日本のコンパクト剪定は理解しがたいらしい。日本でいえば、表参道や御堂筋などのように、街路樹があるためにグローバル・ブランドが出店するような場所こそ評価が高くなる。
日本では、街路樹を植える植穴容積が、幹周25センチの高木を植える場合に0.65立方メートル、幹周60センチで3.7立方メートルが必要とされている。アメリカでは、幹直径40.6センチ(幹周だと127センチの計算となる)で28.3立方メートル必要。桁違いに土の量が多い上、日本は関東平野のように根の成長に適した火山灰土が多いと問題ないが、通常、都市中心部では建設残土で埋め固められるため根張り環境が確保できない。
アメリカでは、さまざまなルールを決めて街路樹を管理しているのに対し、ドイツではマイスターのような専門家によりしっかり管理するシステムが構築されている。アーボリストという資格がヨーロッパにはあり、ドイツでマイスターアーボリストの資格を得るためには、大学で3年間学び、実務で3年が必要。彼らは市の職員として管理にあたる。
フランスでは、アーボリストに加え、厳しい規制で街路樹を守り、育てる。街路は単なる移動の手段ではなく、景観を楽しむ場所でもある、との認識が強いようだ。
では、日本ではどうして切詰め剪定(ぶつ切り剪定)」が一般化してしまったのか。昔はそうではなかったらしい。戦後復興と東京オリンピック開催という大きな目標を達成したあと、それまでの意欲が弱まったことと、技術が継承されなかったという要因が大きいとの分析だ。欧米の都市でもそういう時期があったものの、みんな立て直してきたらしい。
では、日本の都市での成功例はどこか?
例えば、仙台の青葉通り、名古屋の100m道路(久屋大通り、若宮通り)が代表らしい。それらも、やはり意識が低下してピンチになった時期があったらしいが、意識改革と努力によって立ち直ったようだ。
日本の役所が、街路樹を大きくする表面的な理由の一つにあげるのが、落葉の苦情。ドイツでは、隣接する土地の人が掃除をしなければいけないらしい。それが難しい都市部では、隣接する土地の所有者が税金を納めることで自治体がする仕組みになっているとのこと。当然、税金を納めない家の前は落葉だらけになる。ごみの有料化に似ている。
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著者プロフィール
千葉大学名誉教授
「2018年 『造園実務必携』 で使われていた紹介文から引用しています。」
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