安愚楽鍋 (岩波文庫)

著者 :
制作 : 小林 智賀平 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 55
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003100110

感想・レビュー・書評

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  •  岩波文庫緑帯の1-1って何だろう、と思い探した結果こいつがヒットしたので購入。日本史に暗い私は、近代文学の始まりと言えば坪内逍遥・二葉亭四迷辺りが頭に浮かび、この小説及び作家のことは知りもしなかった。牛鍋を食べるところの挿絵を、どこかで見たことがあるくらいだ。東京は浅草の某老舗で食べたすき焼きの鍋と同じ形で、ちょっと感動した。

     この小説は、様々な職業の人が、明治初期の文明開化に伴い普及した肉食文化の代名詞である「牛鍋」を食べつつ、当時の風俗等について自由に語るという形式を採っている。
     解説を読むと、この小説はいわゆる「際物」小説にあたるらしい。際物とは、「実際にあった事件や流行などをただちに取り入れて脚色した戯曲、小説、演芸、映画などの類」のこと(日本国語大辞典より)。
     で、著者の魯文については「結局は際物書きの連続に過ぎなかった」「大体からいって際物作家には確固たる信念はなく思想の深さもないのが通例である」「明治新時代の作家としては無自覚な諷刺的意義を持つ作品を生んだ点で、わずかに新時代の作家としての意義を認めることができるのみである」(p.13)と、散々な言われようである。ここまで作者をこき下ろす解説は初めて読んだ上に、本編より先にこの解説が入っている不遜っぷりだ。
     逆に言えば、軽い気持ちで読まれていた本を通じて、面白可笑しく当時の風俗について知ることができる本だとも言える……
     のだが、そこは明治4年刊という古さ。坪内逍遥や二葉亭四迷ですら注釈や辞書を頼りに読んだのだ。明治以降の文学しか読んでいない教養レベルの自分には、沢山の校注があってなお、頭を抱えたくなるくらい読み辛かった。
     「牛のねもでねへ」(p.83。牛と馬が牛鍋について語ってるところでの、牛のセリフ)って何?…………………あぁ、「ぎゅうの音も出ねえ」か。「ぐうの音も出ない」の「ぐう」と「牛(ぎゅう)」を掛けてるのか。なるほどね。うるせえ!みたいな。こんなんばっかり。
     著名な古典を題材にした、現代語訳とかまんがで読破シリーズとかあるのだから、この小説も手掛けて欲しい。

     ただまぁ、新しいものがガンガン入ってくる未曽有の時代である「明治時代初期」の大衆文化を垣間見るものとして、面白かった。当時の新しい文化を嬉々として受け入れ、これからは洋学だとか、牛鍋食べなきゃ開化じゃないとか言う人がいれば、それを嘲笑する人もいる。こんなことが、もう何千年と繰り返されているのかも知れないな。

     明治時代を描いた小説や伝記として読んだものとしては、富岡製糸場で働いた女工さんの回想録『富岡日記』や、日露戦争へ向かっていく大いなる楽天家たちの物語『坂の上の雲』が記憶に残っているが、前者は官営模範工場という極めて特殊な場所の回想、後者は国を背負う人々の物語。『安愚楽鍋』のような、当時の自分たちである「民衆」に意識して目を向けたものを読むのは、もしかしたら初めてだったかも知れない。
     小説にしろ文化史にしろ、文明開化という一大イベントが当時の民衆にどう映ったのかということを念頭に、色々読んでみたいなと思った。そう思えただけで、この本を読んで良かったなと思っている。

  • 明治初期の文明開化といわれる激動の時代、人々が戸惑いつつも様々な新しい文化に触れていく様子を面白おかしく当時の言葉使いで生き生きと伝えてくれる。例えば、牛肉を食べることを嫌いつつ、興味があり、恐る恐る食べてみる様子や、生臭坊主の話など。やや低劣な話題もあるが、それも含めて人々が新しい時代を乗り切ろうと暮らした躍動感が伝わってくる。

  • 校注:小林智賀平

  • なかなか面白かった。
    文明開化に牛鍋に浮かれているばかりじゃなくて、まだそこに江戸時代の空気も残してごったになってるとこがいい。

  • NHK TV Jブンガク2009年6月に、紹介の放送がありました。

    テレビでは、ロバートキャンベルが、ushi nabeという広告を紹介しているくだりがとても面白かった。
    テキストにはないが、DVDを発行するのであれば、面白い話は、資料として付け加えてほしいと思いました。

  • 緑1−1

  • 口直しに、こちらでもいかがでしょうか?『安愚楽鍋』はものすごーく面白いので、一気に読み切ることができるはずです。誰にもお奨めしたい傑作!

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著者プロフィール

文政12(1829)年江戸生れ、1894(明治27)年没。幕末から明治初期に活躍した戯作者、新聞記者。明治期の『西洋道中膝栗毛』、『安愚楽鍋(あぐらなべ)』などが代表作。また、『仮名読新聞』、『いろは新聞』などを創刊・主宰、新聞記者として活躍。

「2021年 『安政コロリ流行記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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