五足の靴 (岩波文庫 緑 177-1)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003117712

作品紹介・あらすじ

明治40年盛夏。東京新詩社の雑誌『明星』に集う若き詩人たち-北原白秋、平野萬里、太田正雄(木下杢太郎)、吉井勇がいさんで旅に出た。与謝野寛との五人づれは長崎・平戸・島原・天草と南蛮文化を探訪し、阿蘇に登り柳川に遊ぶ。交代で匿名執筆した紀行文は新聞連載され、日本耽美派文学の出発点となった。

感想・レビュー・書評

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  • 読めば、そこに旅したくなる。明治40年といえば、1907年。今から約100年前である。柳川の造り酒屋だった北原白秋の家はまだあるのだろうか。島原大江村のパアテルさんの教会はまだあるのだろうか。この有名な五人の歌人や小説家、随筆家はその後、それぞれの道を歩いて行ったのはご承知の通り。しかれども、海に行けば誰彼ともなく飛び込み、山に行けばずんずんと歩きだす、今はただ未来は知らず、青年たちの明治の生き生きとした紀行文がここにある。

    私の旅レポートもこれくらい面白ければいいのだけど。

    (十二)大失敗
    五足の靴は驚いた。東京を出て、汽車に乗せられ、汽船に乗せられ、ただ僅かに領巾振山(ひれふるやま)で土の香を嗅いだのみで、今日まで日を暮らしたのであった。初めてお役に立って嬉しいが、嬉しすぎて少し腹の皮を擦りむいた、いい加減に蒙りたいという。しかし場合が許さぬ、パアテルさんは未だ遠い遠い。道を誤えて後戻りするやら何やらしてひどい嶮しい峠を越えると川がある、川の中に馬が遊んでいる。高浜の町は葡萄でおおわれている、家ごとに棚がある、棚なき家は屋根にはわす、それを見て南の海の島らしい感じがした。
    豆を豆殻より離さんと槌もて筵を打つ子がある。三生は橋に凭れて暮れゆく雲を見る、二生は富岡に倣って駐在所を訪うたが留守だ、昔の大庄屋の家へ出かけ天草の乱の考証中である。ここは面白い、泊ろうというH生の提議もパアテルさんには敵わん、H生は詩を作る。(46p)
    2014年2月11日読了

  • 初読。夏休みに天草の五足の靴に予約を入れたので購入したが、旅行は行き先変更。でも買ったからには読まねば。のんびりとした旅行の風情が味わえる。贅沢だなあ。やっぱり天草行っとけばよかった。ぜひ次の旅行は九州へ!

  • のちに文壇に名を残す存在になる詩人たちと、一回り年の離れた与謝野鉄幹(寛)のひと夏の「修学旅行」。
    これが実際にあったことで、「五人づれ」という匿名で雑誌に連載していたなんて、好きな人にはたまらないと思う。

    実際読んでみると、ダレているところも引いてしまうところもある。それは理想通りにはいかないけれど、とても微笑ましい場面や美しい場面もある。苦労している場面もあるけれど、一息いれるようにまた躍動的な文章が始まったりして、不思議とリズムや音楽が漂うように感じた。
    一人ひとりの背景を知って読むと、単なる紀行文には終わらない、眩いような価値があると思う。

  • 五人づれ:与謝野寛(与謝野鉄幹)・北原白秋・平野萬里・太田正雄(木下杢太郎)・吉井勇、解説:宗像和重
    厳島◆赤間が関◆福岡◆砂丘◆潮◆雨の日◆領巾振山◆佐世保◆平戸◆あれの日◆蛇と蟇◆大失敗◆大江村◆海の上◆有馬城趾◆長洲◆熊本◆阿蘇登山◆噴火口◆画津湖◆三池炭鉱◆みやびお◆柳河◆徳山◆月光◆西京◆京の朝◆京の山◆彗星

  • 100年も前の詩人 文筆家五人衆の、夏休みの旅行日記。だらだらと詩的にツラツラ書いている‥

  • 新書文庫

  • こんな風に、ふらりと徒然なるままに旅してみたい。
    島原の華やかさが強調して描かれていたのが印象的。

  • 【本の内容】
    明治40年盛夏。

    東京新詩社の雑誌『明星』に集う若き詩人たち-北原白秋、平野萬里、太田正雄(木下杢太郎)、吉井勇がいさんで旅に出た。

    与謝野寛との五人づれは長崎・平戸・島原・天草と南蛮文化を探訪し、阿蘇に登り柳川に遊ぶ。

    交代で匿名執筆した紀行文は新聞連載され、日本耽美派文学の出発点となった。

    [ 目次 ]


    [ POP ]
    旅先などで雨風にさらされた文学碑を読んでいると、何やら時間が巻き戻されたような不思議な感興におそわれる。

    何年か前に九州の天草方面に旅した折、「五足の靴」の碑を見た時もそうだった。

    東京の新詩社に集う詩人たち――北原白秋、平野萬里、太田正雄(木下杢太郎)、吉井勇と与謝野鉄幹の五人づれが平戸、島原、天草などを探訪、匿名で交代に執筆した紀行文が「五足」である。

    詩人の名だけでも耽美的、浪漫的な空気が漂う。

    キリシタンの里、夕日に映える海……かの地の歴史や風景からも旅のロマンをかきたてられる。

    彼らの旅から今年で百年。

    先月、岩波文庫で出た本書を初めて読んで驚いた。

    〈真直な水色の糸が蓮の葉に降ってささと鳴る〉などロマンチックな描写もあるが、意外にもがさつで伸びやかな表現が多く、愉快なのだ。

    冗談に興じ、美女に見惚れ、漁人町の異臭に閉口し、闇におろおろする。

    当時、鉄幹は35歳だったが、他の4人は20代前半の学生か学生あがり。

    それぞれの個性は豊かで、まだ裸の感受性が発露している。

    これは若き日の詩人たちの貴重な肖像である。

    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 火のうしほ世をも人をも焼かむとす恋にさも似る君が家の酒
     吉井 勇

     1907年(明治40年)7月下旬、「五足の靴が五個の人間を運んで東京を出た」。行き先は、九州。平戸、長崎、揺れる船で島原へ、さらに阿蘇の噴火口や、北に戻って三池炭鉱などをめぐる旅である。
     健脚の5人の名は、雑誌「明星」を創刊した与謝野寛と、そのもとに集った20代の詩人たち、北原白秋、平野萬里、木下杢太郎、吉井勇。
     その浪漫精神香る道中は、新聞に紀行文というかたちで連載された。交代で匿名執筆されたため、誰がどの文章を書いたのかは特定しにくいが、五感を駆使した描写はいずれも臨場感がある。島原名産のスイカにかぶりつく場面などは、思わずのどが鳴ってしまうほどだ。

     さて、明治末期の若い彼らの関心は、九州に浸透した南蛮文化にあった。たとえば天草では外国人宣教師と面会したほか、各地の風物も異国語のように聞きとる聴覚描写に特徴がある。「五足の靴」が、草鞋【わらじ】ではなくあくまで西欧の「靴」であることも、その志向の現れなのだろう。
     掲出歌は、福岡県柳川にあった北原白秋の生家での作。造り酒屋であり、「潮【うしお】」という銘酒が有名だった。下戸の平野萬里も、その酒は気に入ったと書き記している。歌の作者名は新聞発表時にはなかったが、のちに「明星」に掲載され、吉井勇の作と特定できた。
     紀行文「五足の靴」は、現在文庫本になっている。140ページのハンディなこの本を手に、ゆかりの地を旅してみたい。

    (2012年7月29日掲載)

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