崋山・長英論集 (岩波文庫 青 25-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003302514

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  • 先日、蔵書から懐かしい本も探し当てた。この「華山・長英論集」である。

    大学の二学年、日本思想史研究室に入った私の受けた必修最初のゼミがこれだった。約20人が順番を決めて数ページづつレポートを提出しそれに沿って議論していく。教養学部では、授業形式しかなかったので初めての体験だった。というか、ゼミの本質は、大学を卒業したあとに後悔とともに初めて思い知ったのだと思う。私は年二回しかなかったレポートを「宿題」感覚でやり過ごしただけだった。現代訳を付け、ポイントを述べただけだった。問題意識もない。ましてや、解説の佐藤信介氏の意見に対して新説を述べるような勇気も無かった。

    その年の五月、哲学者の真下信一氏を新聞会が呼んで新歓の講演会をした。氏は「私たちはどう生き、学ぶか」という極めて本質的な話を極めてやさしくお話した。私は会のメンバーの端くれとして時間待ちの時に氏と暫く話をした。ほとんど覚えていないが、氏が「ほう、日本思想史をしているんですか!今何をしているのですか?」と聞いてきたので華山・長英論集を読んでいると、さも「読んでいる」かのように言ったのだと思う。「うん、それならば高橋慎一君の「洋学思想史論」が参考になると思うよ」と言ってくれたことだけは覚えている。なぜなら、本当にその本を探し買ったからである。しかし内容を全く覚えていない。読んだ覚えはあるが、頭の上を通り過ぎただけだった。もう一つ、氏のことで覚えていることがある。ともかく、何がかは覚えていないが、優しい人だった。この人が本当に京都の反ファシズム戦線の中心で闘い、獄舎にも繋がれても(1939京都人民戦線事件)、転向もせずに頑張れた人なのか、そのギャップに不思議に思ったことを覚えている。

    ともかく、ゼミを通じて鳥居耀蔵がいかに悪い奴か、というような下世話なことだけが頭に残った。

    「華山・長英論集」をざっと読んでみた。例えば長英の「夢物語」ではこんな記述がある。
    乙の人曰く、西洋諸国にては、殊の外、人民を愛憐つかまつり、人命を救い候は何よりの功徳と存じつかまつり候ことにて、既に先年、デネマルカ(デンマーク)と申す国とイギリス争戦のおり、イギリス水軍、デネマルカの都コーペンハーガと申す処へ押し寄せ候処、同都防御の備え、はなはだ厳重にて、イギリス人大いに敗北つかまつり候。その節、一軍艦、石火矢のために大いに破損つかまつり、既に覆没溺死に臨み候ところ、イギリス急に一詭計を考えだし、船中にデネマルカ人数十人捕らえおき候あいだ、(以下略)。

    つまり、華山・長英たちは、モリソン号打ち払い事件を見て、「その外交政策ではやがて西洋諸国に侵略される。先ずは開国をするべきだ」と主張したいわけであるが、西洋の「捕虜制度」の紹介をすることで「人民を憐れむ」仁の国でないといけないと、武士の泣き所を突く政治的発言をしているわけである。ここら辺の事情を知っていたということは、相当西洋事情に詳しくなければならない。いろんな西洋書物を読んだに違いない。実際彼等の知識は、不正確な所も一部あるが、下手な歴史通よりも詳しいのである。

    蛮社の獄が1839年。前野良沢、杉田玄白が「解体新書」を著して63年目である。その間に江戸の知識人の海外知識は、長足の進歩を遂げていたのだということを今改めて少し読み返して、私は驚き共もに知った。この後、たった30年弱で明治維新を迎えることは、すでに言及した。

    いつの世も「言葉」は理解の窓なのである。ハングルと中国語を理解する人口はこの10数年で急速に増えたはずだ。それは、おそらく、必ずや東アジアの相互理解と平和に繋がっていくだろう。

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