強国論 (岩波文庫 青 412-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (95ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003341230

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  • 近代歴史学の父ランケは歴史叙述において政治を最も重視し、その政治を規定する最大のファクターを対外関係と考える。こうしたランケのスタイルが最も典型的に表れているのが本書だ。100ページ余りの小著であり、内容的にも高校の世界史に毛の生えた程度なので気軽に読めるが、近世ヨーロッパ外交史を鳥瞰する独創的な視点が示されており、決して侮ることのできない古典である。

    ランケは近世ヨーロッパの国際政治を勢力均衡体系と捉え、その背景に強大化したフランスの覇権国化を阻止せんとする各国の動きを見出している。興味深いのは、ランケは国民精神を独立国家の不可欠の基盤と考えるのだが、欧州各国が自覚的に国民精神を形成する上で強国フランスの脅威が大きな刺激になったという。一方フランスにおいても革命の背景には対外的威信の喪失が招いた国内的混乱がある。あくまで対外関係を起点に国内政治を見る視点で貫かれている。

    後にトクヴィルが『 旧体制と大革命 』で詳細に跡付けたように、革命の前後でフランス国家の本質は大きく変わっていないというランケの指摘も注目すべきだ。この点は絶対王政期に始まる中央集権化という国内政治構造に如実に表れているが、対外関係でも欧州の覇権国家への道がナポレオンに引き継がれ、それが周辺国のリアクションとして反仏同盟を促すという構図は革命前と全く同じだ。表層的な変化の底流に一貫した歴史の論理を洞察する眼力は、ランケを単なる時代遅れの実証主義者と見做すことが誤りであることを示している。

    本書はランケ入門に最適であり、その国際政治観を知る上で必読だが、ランケの政治哲学や国家観を知るには『 政治問答 』がよいし、ヘーゲルの形而上学的歴史哲学に抗し、歴史に対する基本的な態度を明らかにした『 世界史概観 』も見逃せない。いずれも岩波文庫にあるが、品切重版未定で今のところ古書を探すしかないのは残念だ。

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