- Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003368435
作品紹介・あらすじ
人間の求める価値は多様であり、相容れることのない複数の価値が並び立つ状況を受け入れるべきである——。二〇世紀の悲劇を経験したバーリンが生涯をかけて擁護しようとした多元主義。マキアヴェッリ、ヴィーコ、モンテスキューを独自に読み直すことによって、その思想的起源をさぐった作品群を編む。円熟期の「理想の追求」も収録。
感想・レビュー・書評
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本書に収録されている『理想の追求』は、著者バーリンの思想的歩みが自身の口から語られている。著作を通して出会ってきた哲学者や思想家からバーリンが如何なるものを汲み取ってきたかが率直に論じられる。
バーリンの取る相対主義の立場と多元主義の違いが分かりやすく説かれているのが、特に印象的だった。
表題作のマキアヴェッリのほか、ヴィーコ、モンテスキューが論じられている。
・マキアヴェッリについて
マキアヴェッリは特殊道徳的価値と特殊政治的価値とを区別したのではない。彼が区別したのは、二つの非両立的な生活の理想、二つの道徳の区別である(39頁)。
一方の道徳は異教世界のそれであって、勇気、精神力、…正義、自らの正当な要求の主張、要求の充足に必要な知識と力に価値を置いている。他方はキリスト教の道徳で、慈悲、あわれみ、…彼岸での生活への信念、個人の魂への救いへの信仰である。
・ヴィーコについて
世界ー自然ーは、それを作った神のみがそれを完全に知ることができる。人間が完全に理解できるのは自らが作った芸術品、政治制度、法制度、ルールが決められている全ての学問、そして人類史である。(158-160頁)
・モンテスキューについて
モンテスキューの用心深い経験主義、法律を普遍的に適用することへの不信、人間の能力の限界に対する鋭い感覚といったものが、「恐るべき単純化をするひとびと」に対して敢然と立ち向かっていく(253頁)。彼らは知的に明晰であり、道徳的に心が純潔であるからこそ、巨大な抽象の名において、人類を幾度となく犠牲に供してきた。
ヴィーコとモンテスキューの著作は何冊も積ん読状態。バーリンの読みに導かれながら、何とか読破したい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
20世紀の思想家・バーリンの4作を収録。
まだ読んでいる途中だが、感嘆させられ、とりあえず感想を書いている。
今までの人生で読んだ中で、1、2を争う名著。
(今のところNo.1は『戦争と平和』)
まずタイトルでもある『マキァヴェッリの独創性』。
自分はマキァヴェッリについては『君主論』しか読んでおらず、『君主論』についてもその非道徳性にやや眉をしかめたのだが、このバーリンの解説を読んで、マキァヴェッリは決して道徳を否定したのではなく、むしろその価値を認めているからこそ、相反する君主の在り方を敢えて書き示したのだと理解した。
バーリンはマキァヴェッリ以上に整然と、「選択しなければならない」と断言する。
公民として社会の発展に尽くすには、魂の救済としてのキリスト教的道徳は持つことが出来ない。
社会の中の個人と、個人の道徳は、根本的に違う。
あまりに身も蓋も無い話だが、それが現実というのはそのとおり。
人は誰しも、自らの置かれた立場と道徳の間で悩んだ経験が一度はあるのではないだろうか。
マキァヴェッリは、価値ある道徳を捨てる覚悟こそ、君主たる人物がその力と引き換えに取らざるを得ない犠牲だ、と言っているように聞こえた。
道徳か、現実か。
中間はない。
自分には一生の問いになるだろう。
『君主論』を読む人には、このバーリンのマキァヴェッリ論もぜひ読んでほしいと感じる。
『自然科学と人文学の分裂』『モンテスキュー』は『マキァヴェッリ』とは毛色が違い、いよいよバーリンの多元主義が発揮されており、たまらない。
一つの絶対的な価値観、科学的に証明できる答えを追求し強制するのではなく、多様なバックグラウンドと科学の限界に理解を示す。
他者理解は、この世で最も知的な活動の一つだ。
モンテスキューの著書は絶対に読みたいと思った。
法律は、自然条件や地理や文化に基づいて各々の地に適したものがある、と主張する『法の精神』。当時絶対的先進国であったヨーロッパを、敢えて外側からの目で捉えた『ペルシア人の手紙』。
どちらも楽しみで仕方がない。
ところどころ、モンテスキューがバーリンに乗り移りすぎて、バーリンの解釈なのか或いはモンテスキューからの引用なのか、区別がつきづらいところはあった。
しかしそれもよし。
モンテスキューとバーリンの間にはおよそ200年の開きがあるが、その200年の間の思想家、或いはその200年より前の思想家についても体系的に述べられていて、これを読むだけで思想史の流れを知ることもできた。
非常にお得な読書体験である。
これから読むべき本がたくさん見つかった。
読書は本当に素晴らしい、素直にそう思わせられる一冊。
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読了。
『理想の追求』は筆者の思想履歴書のようで、この一冊を総括して答え合わせのような気持ちで読んだ。
彼がユダヤ人であることは、やや差し引いて読みたいところはあるが、ナチス・ドイツの狂気が一元論の極限であることもまた事実である。
ただ一つの理想を定めそれを追求することは、即ち何の犠牲もいとわないことになり破滅を招く、という論理はすんなり腹落ちした。
バーリンの多元論こそ、自分の今まで考えてきたことだと感じた。
自分の世界観の多くが、その言葉で説明がつく。
素晴らしい本との出会いであった。
この後はヴィーコとモンテスキューを読む。 -
https://www.iwanami.co.jp/book/b599111.html
https://yasu-san.hatenadiary.org/entry/20130307/1368229998
マキアヴェッリの独創性 ①※
‘The Question of Machiavelli’, New York Review of Books, 4 November 1971, 20–32; repr. of part of ‘The Originality of Machiavelli’, in Myron P. Gilmore (ed.), Studies on Machiavelli (Florence, 1972: Sansoni), 149–206
自然科学と人文学の分裂 ①
The Divorce between the Sciences and the Humanities, 2nd Tykociner Memorial Lecture (Illinois, 1974: University of Illinois), 34 pp.; repr. in Salmagundi no. 27 (Summer/Fall 1974), 9–39
モンテスキュー ①
‘Montesquieu’, Proceedings of the British Academy 41 (1955)
理想の追求 ④※
On the Pursuit of the Ideal (Turin, 1988: Giovanni Agnelli Foundation), 16 pp.; repr. in New York Review of Books, 17 March 1988, 11–18
https://berlin.wolf.ox.ac.uk/lists/bibliography/index.html