古代社会 下巻 (岩波文庫 白 204-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003420423

感想・レビュー・書評

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  • 1877年に出版された本書は人類学の先駆をなす古典的名著とされる。ずっと読みたかったのだが、岩波文庫で復刊されたところを早速買った。
    しかしこの本はふたつの顔を持ち、私個人としては複雑な(アンビバレンツな)気持ちをいだく。ひとつの顔は、アメリカのイロクォイ族をはじめ、フィールドワークと文献渉猟から膨大な知をかきあつめた実に興味深い人類学資料としての面。だがもう一方の顔、それは、「未開社会=幼稚な段階の文化」として異種の文化や人間をさげすみ、自らの近代西欧文化のみが正しいものである、という、例の「ヨーロッパの思い上がり」の時代をまさに反映した考え方を示しているのだ。
    この点、ヘーゲルの歴史観ともまったく同一であり、19世紀ヨーロッパはまさに、自分たちだけが正当な文化を誇っており、他者を支配するのは当然だというような気分に包まれていた。ダーウィンの「適者生存」説が受け入れられたのも、弱者は滅び、強者は栄えるのが当然だというヨーロッパ人の権威志向を承認し、あるいは、弱者をふみにじる際におぼえるかすかな良心の痛みを正当化するための方便となりえたからだ。
    ふたつの世界大戦を経験してそのような西欧中心主義は徹底的に痛めつけられることになるが、モルガンもいかんせん、19世紀の思想にぴったりとはめこまれている。
    「人類種族の歴史は、根源において一であり、経験において一であり、進歩において一である」(P.10)という断言は、たいして根拠もない、カントの言う「独断論的な誤謬推論」にすぎない。モルガンはオーストラリアやアメリカの「未開社会」を「古代社会」とすり替えてしまう。つまり、ヨーロッパ人がとっくに脱してきた幼児期に、未開人は取り残されているのであり、正常に進歩すればどの文化もヨーロッパのようになるはずだ、という勝手な思い込みを表明している。
    私はレヴィ=ストロースの言うような多文化主義だけが倫理的に公平な見方であって、さまざまな「場所」に根付いた文化の多様さは、確率論的に発生する変化の波を受けながらあるいは自滅したり、あるいは「発展」することにより多元化したものだと考える。もちろんそこに優劣のあるはずもなく、コンピュータを発明したから西洋文化が「偉大」だというのは偏った見方にしか見えない。
    ともあれ、そういう点はさておいて、後の人類学で話題となる「未開社会」の親族体系を真摯に考察・分析した点で、本書はやはり素晴らしい先駆的な著作だと言えることは間違いない。

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